今頃二人はどうしているだろう。ふたりきりにしてやったのだから、は告白ぐらいはしただろうか。次に食満先輩が来るのはいつのなるのか知れないのだから、こんな好機を逃す手はないはずだ。食満先輩はどう答えるだろう。先輩は後輩であるのことを可愛がっていたから、あれから二年経っているとはいえ、現在恋人がいなければ告白を受けるかもしれない。は顔を赤く染めて、少し俯きながら小さな声で好きだと伝えるのだろう。食満先輩はの手を取って、さっき俺がそうしたようにの頬に手を添えてそっと口付けて、それから、とそこまで考えて思考を止めた。俺が惨めだ。
そんなことを考えていたら、「富松先輩!」と声がして、ぐいっと袖が引っ張られた。聞きなれたその声に驚いて振り向く。
「?!」
嘘だろ、と思ったけれど、本当に本人が立っていた。走ってきたのか、はぁはぁと息を切らせている。そんなに俺は動揺していた。
「け、食満先輩はどうしたんだよ」
「食満先輩は喜三太としんべヱと平太に会いに行くって、」
「なんではここにいるんだよ」
どうして食満先輩の隣にいないんだよ。おかしいだろ、俺を追ってくるなんて。あんなに食満先輩と話せることを楽しみにしていたじゃねぇかよ。
「先輩はこのあと吉野先生のところへ行くのでしょう?」
「そうだけどよ、」
確かにこれから用具点検の結果を報告するために吉野先生のところへ行くつもりだった。まぁそれくらいはちょっと考えれば分かることなのかもしれないけれど。
「今吉野先生のところへ行けばきっと東の壁の修理を頼まれてしまいます。それを富松先輩だけに負担させることは出来ません」
「別にそれくらいどうってことねぇ。そうじゃなくて、」
そうじゃなくて、せっかく食満先輩が来ているのにそんなことで時間を潰していいのかってことだ。用具の在庫確認が終わったら食満先輩に会いに行くって言ってただろ。もう話はいいのかよ。それを聞きたかったのに、俺の喉から声はなかなか出てこなかった。その間にが「私は、」と口を開き、そこで一度口を噤んで一呼吸置いてからへにゃりと笑ったような表情を作った。
「私は用具委員富松先輩の右腕ですから」
それを言い切るとはそれまでの笑顔を不意に消して、地面を見つめた。そして本人は無意識だろうが上目遣いでこちらを見上げた。
「私がここにいては、いけませんか?」
が小さく聞いてくる。何があったのかは知らないけれど、ここで帰したらは泣き出してしまいそうな気がした。それにそんな風に聞かれて俺が否と答えるわけがなかった。むしろずっと隣にいてほしいと思っているのに。
「いけねぇなんて誰も言ってねぇだろ」
そう答えるとは何故か嬉しそうに笑った。ああ、その笑顔が好きだなぁと思ってそのまま抱きしめたいと思った。
「壁の修理するんなら早く行かないとな」
俺の袖を掴んだままだったの手を引いて歩き出す。もしかしたらは食満先輩に何か言われて俺のところに来たのかもしれない。用具委員として最後まで富松を手伝ってやれとかなんとか言われたなら、はきっと俺のところに来るだろう。でも、例えもしそうだとしてもそれでも良かった。食満先輩より俺の方がと一緒にいる時間は長いわけだし、これからだって俺にはまだまだたっぷり時間がある。それに今の手を引いてるのは他の誰でもない、
この俺だ。 >>