私は今、富松先輩に手を引かれて歩いている。掴まれた右の手首が熱い。そこからじんわりと熱が体中に伝わっていくようだった。また顔が熱い。どうかどうか富松先輩が振り向いたりしませんように。そのために私は早歩きでずんずん進んでいく富松先輩に頑張ってついていく。前を歩く富松先輩は今何を考えて、どんな表情をしているのだろう。それとも何も考えていないのだろうか。富松先輩の組には迷子で有名な先輩がふたりいるから、その先輩達と同じ様な感覚で手を引いているのだろうか。つまり迷子防止用だ。きっと富松先輩は無意識に違いない。癖に近いものだろう。そんなことをしなくても私は大丈夫なのに。私は言われなくても富松先輩のあとについていくのに。そんなことを考えながら先ほどの会話を思い出す。

  「私がここにいては、いけませんか」

自分は用具委員富松作兵衛先輩の右腕だと発言したあとのこの言葉はずるい。これでは私が用具委員としての居場所を求めているように聞こえるだろう。私は用具委員としていらない存在ですか、と。本当は富松先輩の隣にいたいという意味を含ませて言った言葉だったのだけれど。先輩は案の定はそんな思いに気付くわけなく「いけねぇなんて誰も言ってねぇだろ」と答えた。ああ、それは用具委員としてですか、それともひとりの女の子として?

ねぇ、富松先輩。そんなことをされると私は期待してしまいます。私のちいさい心臓は先輩の手に触れられただけで破裂してしまいそうなほどドキドキ言ってしまうんです。あんな風に頬に触れられることだって、あんな風に真っ直ぐ瞳を覗き込まれることだって初めてで、どうしたら良いか分からないんです。期待、してしまうんです。

「富松先輩、あの、」

そう背中に声を掛けても富松先輩は私の声が聞こえないのか、それとも聞こえているのにあえて振り向かないのか、歩みを止めなかった。息が切れてしまって私の声は音にならなかったのかもしれない。先輩は私が声を掛けるといつも立ち止まって、振り向いて、必ず話を聞いてくれるからきっと聞こえていないに違いないと私は思った。

「すき、です」

俯いて小さく小さく呟いた私の声はきっと届かないまま地面に落ちた。それでもいい。でも、せめて富松先輩がずっとこの手を握っていてくれればそれでいいのに、と私は心の中で思いながら富松先輩に手を引かれて歩き続けた。
 

いつか、手と手を繋いで