「いい加減返事をもらえませんか?」
「返事……?」

 利吉さんに言われて記憶を辿る。手紙はもらった記憶がない。手渡された記憶も、家に届いていた記憶もない。戸に挟んでいたのだとしたら知らない間に飛んでいってしまったのかもしれない。

「あの、すみません。手紙は飛んでいってしまったみたいで……」
「手紙? 何の話ですか?」

 違った。知らない間に届いていた手紙の返事の催促ではなかった。

「私の告白をこのままうやむやにするつもりですか?」
「えっ、告白?」

 「なんの?」と尋ねると、彼の目がみるみるうちに釣り上がった。

「人の一世一代の告白を〜〜っ!」
「あれ、愛の告白だったんですか? てっきり普段のお礼ついでのリップサービスかと……」

 言葉の途中で視線を上げた彼にキッと睨まれる。
 思い出されるのは一週間前のこと。三件隣の姉さんが結婚することになり寂しいという話題から私の婚期の話になり、利吉さんが「あなたのこと好きですよ」というから私のことを慰めてくれているのだと思って笑って流してしまったのだった。確かに今思い返すと、その前に妙な間があった気がするし、利吉さんも何やら真剣な瞳でこちらを見ていたような気もする。

「だ、だって、利吉さんから告白されるなんて夢にも思わなかったんですよ!」

 妙な間も、まっすぐな瞳も私のことを心配して励まそうとしてくれているからだと思っていた。いつも私をからかってばかりの彼が、慣れない励ましをしようとしたからだと。

「私なんかその辺の雑草くらいに思われてるんじゃないかと」

 確かに彼はやけに私のところへ会いに来て、それを見た人からはよく揶揄われもしたけれども。それくらいで私は勘違いしたりしない。彼ならば私より器量も気立ても良い娘さんを選び放題なはずだ。

「大体! 利吉さん私といるときいつも不機嫌そうだし!」

 私がキッと睨みつけると、彼はぎくりと身を強張らせた。覚えはあるらしい。

「なんか疲れてるし!」

 グサリ。

「ため息多いし!」

 グサリ。

「ぐっ……!」

 彼は何かが刺さったかのように胸を押さえている。眉間に皺を寄せて、ため息ばかり吐いている相手に勘違いするほど私は愚かではない。

「だから、すきなのは、私ばかりだと……」

 それでもふと見せる彼のやさしさに惹かれてしまった私が悪いのだと思っていた。絶対にこの恋は胸にしまって生きていくのだと言い聞かせていたのに。
 両手で顔を覆おうとすると、彼の手がそれを止めた。

「もう一度伝えた方が良さそうですね」

 そう彼が眉を下げて笑う。

「私にも分かるようにぜひお願いします」

 こんな言い方をしたらいつもの彼ならばもっと他の言い方は出来ないものかと言い返してくるのに、今日は「そうだな」とだけ言って私の手を包み込むように握った。

2025.02.22