学級委員長委員会の部屋にお饅頭を差し入れに行くと三郎の姿しかなかった。しかも机に向かって何か委員会の仕事をしているようだった。珍しいこともあるものだと思いながら、後ろ手に戸を閉める。三郎はちらと私を見ただけで何も言わなかったので、いつものように勝手に自分の分のお茶をいれる。ついでに三郎の分のお茶もいれた。机の邪魔にならない場所に湯のみを置くと三郎は視線を上げず「悪いな」とだけ言った。私自身も邪魔にならないようにおとなしく持ってきた饅頭の包みを開けてひとつ頬張った。差し入れの中にちゃんと自分の分も勘定に入れて持ってきたのだ。

「あ、部屋に資料を忘れた。取りに行ってくれ」
「えー、嫌だよ」

私がそう答えると三郎はあからさまに不機嫌な顔をした。嫌なもの嫌だと言っただけでそんなひどい顔をしなくてもいいじゃないかと思う。三郎は思っていることをすぐに顔に出すから嫌だ。顔に出るじゃなくて、わざと出す。私だって嫌なものを嫌と言って何が悪いんだ。

「学級委員長命令だ」
「何それ」

三郎はどうしても私に取りに行かせたいらしい。意味の分からないことを言い出した。学級委員長命令って何だ。学級委員長ってそんなに偉くて権限のある委員会だったっけ?もしも三郎が庄ちゃんレベルでクラスをまとめてくれてたら考えるけれど、三郎は普段あまり学級委員長として仕事しているところを見ない。だからといって仕事していないわけではないのだろうけれど、学級委員長委員会から直接恩恵を受けている感じはしない。

「そもそも三郎は私のクラスの学級委員長じゃないし」

根本的なところを指摘すると三郎は「気が付いたか」と笑った。また三郎は私をからかって遊んでいたのだ、そう思うと悔しくて私は手の中のお饅頭を大きく頬張った。

「自分で忘れたものくらい自分で取り行ってよ。パシリに使わないで!」
「悪かったよ。冗談だ」

どこで機嫌を良くしたのか分からないが三郎の顔はもうすっかり笑顔で、さっきの不機嫌そうな表情はすべて演技だったんじゃないかと思えてくる。いや、実際に演技だったのかもしれない。ああすれば私が折れると思って。その手には乗るものか。

「一緒に行くか?」

立ち上がって部屋から出ようとしていた三郎が急に気が変わったように振り返って、私へ手を差し出した。誘う三郎の顔はなんだか楽しそうで、まるでこれからものすごく面白い場所へ行くかのようだった。でも実際行くのはただの三郎の部屋だ。いつでも行けるし、面白いことなんてあるはずがない。

「行かない!」
「つれないな」

三郎は声を上げて笑う。何がそんなに楽しいのか、私が断ることも三郎はお見通しだったらしい。「じゃあ行ってくる」と言って三郎が出ていくと急に部屋の中が静かになった。どうしてこういうときに限って他の委員はいないんだ。勘ちゃんや庄ちゃん彦ちゃんがいればお喋りして楽しく過ごせるはずだったのに。

「やっぱり私も行く!」

そう言って慌てて立ち上がって戸を開けると三郎は部屋の前で待っていた。顔を合わせると三郎は至極満足そうな表情をする。

「さぁ行こうか」

また三郎の策にはまってしまった。

2011.08.04