学校が終わった帰り道、私はハチと一緒に並んで歩いて帰っていた。暑いから楽してバスで帰ってしまおうかなと思ったけれど、ハチがお金ないから歩くって言うから何故だか私も一緒に歩いて帰ることになってしまった。
「ねー、ハチ、なんで私たち一緒に帰ってんの?」
「帰る方向が一緒だからだろ」
「今私はバスに乗れば良かったと激しく後悔している。暑い」
「まぁそう言うなって!」
日差しを遮るものもなく、ギラギラと凶暴的な熱を発する太陽の下にいるとすぐに汗だくになってしまう。シャツが背中に張り付いて気持ち悪い。もう暦上では夏も終わっているのにまだミンミンという音が聞こえる。やっぱりクーラーの効いたバスで快適に帰るべきだったのだ。ハチも暑いだろうに、と半歩前を歩くハチの顔を覗きこむ。首筋に汗が伝っていた。それを私のものよりも随分と大きな手の甲で拭う。ハチは誰に言うわけでもなく「あっちー」と小さく呟きながら歩く。こちらを振り向きはしない。
「ねぇ、ハチ。今何考えてるの?」
そう聞くとハチは大抵「今日の晩飯のこと!」とか答える。「アイス食いたい」とか「暑い」とか他愛もないこと。大体予想は付く。それでも私はハチの考えてることがどうしても知りたくなって、ハチの声でそれを聞きたくて、何度もこの質問を繰り返してしまう。
「んー、秘密」
そう言ってハチはいたずらっぽく笑うのだ。この答えは新しかった。ハチは大抵くだらないことを考えていて、それをいつも私に教えてくれるからだ。私は面食らってぱちぱちと目を何度か瞬かせたあと、口を尖らせる。
「何それ、教えてよ」
「んじゃあ、が今何考えてんのか教えてくれたらな!」
「ハチが教えてくれなきゃやだ」
「じゃあ俺も教えない」
「けち!」
私がそう言うとハチはくるりと振り返る。私はハチの顔を不意打ちで真正面から見てしまい、うっと固まる。
「って本当うっせーな。蝉みてぇ!」
そう言ってハチは笑う。うるさいと言いつつもそれがからかいだと分かる声で笑う。私は反論するのも忘れてその笑顔に見とれてしまうのだ。私はその笑顔に弱い。
「ほら、暑いんだからうだうだ言ってねーでさっさと帰るぞ」
んでもってアイス食う!と言って再び前を向く。私はその姿を追いかけることが出来る。私はハチが行くところどこへでも付いていくことが出来る。ハチが来るのを待ってるだけじゃなくて、自分からハチに会いに行くことが出来る。
「待ってってば」
自分の思っていることを伝えることだってやろうと思えばいつだって出来るのだ。まだ言わないけれど。
「早く来いよ」
待ってと頼めばハチは歩みを止めて振り返り、私を待ってくれる。私はスカートを風にはためかせて、彼の隣を歩いた。
私はただそれだけのことが嬉しかった。