その蝉が二度目に生まれたのはもう八月も終わる頃だった。

土から出てきた蝉は次に木に張り付き、大きな声で鳴きだした。振り絞る声。その木はあまり人が通らないところに生えていたらしい。蝉の鳴き声以外は聞こえない静かなものであった。たまに蝉の木の近くを人間の男の子が何度か通った。その人間の男の子はそのときによって大小様々だった。しかしそんな彼らの中に蝉を気に留めるものはいなかった。おそらく夏も終わりで蝉の鳴き声など聞き飽きてしまったのだろう。

それでも蝉は鳴き続けた。地上に出てからまだ数時間しか経ってはいなかったが、ひとりたりとも蝉を意識するものがいないのは寂しかった。外に出てきた喜びと折角出てきても認められない悲しみと。それでも蝉はただ鳴き続けることしか出来なかった。

「おお、こんなところに蝉がいる」

そう言って蝉を見上げる少年がいた。初めてその蝉の存在を意識した人間だった。

「昨日まではいなかったよな。どこから来たんだ。それとも今日やっと土から出てこれたのか?」

毎日ここを通っているかのような口ぶりだった。その少年はしっかりと蝉の姿を見上げ、蝉に話しかけるかのように言った。蝉は鳴くのをやめてその少年の声に耳を傾けた。蝉は人の言葉を喋ることなど到底出来はしなかったが、代わりにジジジと返事をするかのように短く鳴いた。

「太陽の下はどうだ?暑いか?でもその木の下なら少しは涼しそうだな」

そう言われてもこの木以外に止まったことなどなかったから蝉は答えられなかった。しかし少年が言うからには、この木は立派な樹木なのだろう。

「頑張って生きろよ」

少年はにかっと笑みを見せてそう言った。まるで蝉の上で照らす太陽のような笑顔だった。その一言と笑みを残してその少年は来た方向と逆へ歩いていった。その少年の姿が見えなくなるまで蝉は黙っていたが、完全に見えなくなると蝉はより一層大きな声で鳴いた。