私は溢れそうになった涙を袖でこすりながら裏門を通り過ぎようとしたとき、ガッと腕を掴まれた。「どこへ行くの?」 ああ捕まってしまった。





「どこへ行くの?」

彼は穏やかな声で尋ねた。穏やかな声だけれども怒っている、と思った。静かな怒りだった。当然だと思う。彼にはその権利がある。 3日ぶりの彼の姿は、当たり前だけれども全然変わっていなかった。だけれども私は彼がとても懐かしくて、彼が全く違う人間になってしまったように思われた。

「君の家はこっちじゃないはずだろ?逆方向だ」

低い声で彼が断言した。ばれていた。ひばりくんは何でもお見通しだなぁ。何でも知ってる。私の家がこっち方面じゃないことも、私が毎日裏門から帰っていたこともひばりくんを避けていたことも多分全部お見通しだったに違いない。

「ひばりくん、怒ってる?」
「怒ってるよ。怒ってるに決まってるじゃないか」

君に会いたくて、毎日迎えにきたのに、君は僕を避けて裏門から帰るし。僕が気付いていないとでも思った?それでも僕は君が会いたくないなら、と思っていたけれど、もう我慢の限界だよ。僕は3日も待った、と彼は言った。ごめんねひばりくん。私は謝ることしか知らない。私がごめんねを繰り返すと彼はスッと私の瞳を覗き込んだ。真剣だけど、険のあるものじゃない、ひどくやさしい黒の瞳。

「僕がこわい?」

あの夜と同じように彼が尋ねた。私は一生懸命首を横に振った。今度はあの時と違って彼は私と向き合っているので、伝わらないということは、ない。

「僕のこと、嫌いになった?」

そんなわけ、ない。ひばりくんが私のこと嫌いになることはあったとしてもその逆はないよ。私はひばりくんのことこんなにも好きなのに。 私はばかだからきっと沢山ひばりくんを傷付けた。思い込みと勘違いが激しくて、人の噂をすぐ信じちゃう浅墓なおんなです。でも、それでも、

「私はひばりくんのことが好きです」

ひばりくんの隣にいることを許してくれるら。それでもし、ひばりくんが私のこと好きと言ってくれたなら。他に何もいらないよ。

「そう、」

と彼が小さく呟いて私を抱きしめた。強い力だったのに、それなのにひどくやさしい抱きしめ方だった。ねぇ、知ってた?

「僕は君のことがとても好きなんだ」

君が嫌だと言っても放してあげない。  どうしよう、私今すごい幸せだ。