怖い。こわいこわいこわい…!私の脳みそはこの状況をどうやったら打破できるのか一生懸命、頭から煙が出るんじゃないかと思うくらい必死で考えていたのですが、私のちっぽけな脳みそでは、私の非力さではどうにもならず、はっきり言って私は途方にくれていました。うっかり涙が出そうになって俯いてしまって、ああ余計涙がこぼれそうになって失敗した!と思いました。どうしていいのかわかりません。でもそんな中ただひとつだけ私にも分かることがありました。
どうやら、私はいま、人生最大のピンチに陥っているようです!





その日、私、は町を歩いていた。今日のおやつに食べるアイスを買いに行くところでした。一回家に帰ったけれども着替えるのが面倒だったので、制服のまんま。セーラー服のスカートが風にはためく。学校帰りに寄り道してるみたいに思われちゃうかなぁ、と思ったけどまぁ気にしないことにした。ここ学校から割かし遠いし大丈夫だ!と思うことにして。見つかったとしても先生にちゃんと説明すれば信じてもらえるはず!それより今日は何のアイス買おうかなぁ…。空は青くて良い天気だし、今日は良い日だなぁ。

と思いながら上を向いて歩いていたら人に思いっきりドンとぶつかった。拍子に少しだけよろける。何が良い日だよ自分!しっかり前見て歩かないから…と自分を叱責して、顔を上げて「ごめんなさい」と謝った。謝ったんだけど。

「ああ?痛ってぇな」

許してもらえませんでした。え、うそ、ありえない。私がぶつかってしまったのはあろうことにも怖そうな高校生?大学生くらい?のお兄さんで、目つきがおそろしく悪くて、髪の毛を金髪に染めてて(でも根元の方は黒い)、ピアスを沢山付けているようなひとだった。よりによって。しかも彼にはお友達が他に二人もいらっしゃって、全員が私を見下ろしている。(こ、こわい…!)

「ご、ごめんなさい」
「すげー痛ぇんだけど」

だから謝ってるじゃないですかー!と心の中で叫んだけれども当然口に出して言えるはずがなく、私は俯いてもう一度もごもごとごめんなさいと謝った。私さっきからそれしか言ってない。ばかな子みたいだ。だけど、怖くてそれ以外言えなくて、そもそも言葉を発するのさえいっぱいいっぱい。誰かに助けてほしかったけど、道行く人は皆私達を避けて通っていった。私の視線も避けていた。誰かに助けてほしかったけど、誰も助けてくれそうになかった。だって皆、誰もが自分の身が一番かわいいんだ。知っている。 どうしよう、おやつのアイスを考えてる場合じゃない。どうなるんだろう、私。お兄さん三人が私を睨んでて、私はスカートの端を握り締めて俯いていることしか出来なかった。こういうのって、医療費払えよ、とか言ってお金を取られちゃうんだろうか。それともぼこぼこに殴られたりするのだろうか。 こわい、だれかたすけて


「そこで 何してるの?」


声が、した。それは私には救世主のように思えた。もしくは英雄。もしくは神。低く静かな、しかしその場にはっきりと響くような声。男は振り返った。何だよ、とかなんとか言いながら。多分、出来る限り、"相手を迫力で殺してしまいそうな目"で睨んで。けれども彼はそのままの姿勢で固まった。

「ねぇ、何をしてるのか、聞いてるんだけど」

声がもう一度聞いた。他の二人も一人目のお兄さんと同様に固まっていた。口がぱくぱく動いている。ひ、ば…? 私は少しだけ、体を横にずらして、男で隠れて見えない声の姿を確認しようとした。もし、この人たち以上にやばいひとだったらどうしよう。こう、親分的なひとだったら…(もうおしまいだ!)

「ねぇ、」

と、声の主がもう一度言うと、お兄さん達は今度は急に動き出して。走って行ってしまった。え、これって逃げたのかな?分からないけど、助かった、のかな? 目の前の男が消えて、正面に立っていた声の姿が現れた。すっごい強面のヤクザみたいな人をイメージしていたけれど、なんてことはない、普通の男の子だった。 ううん、普通じゃない。ものすごくかっこいい男の子。真っ黒い学ランに真っ黒い髪に真っ黒な瞳を持った。

「君もいつまでそうやって地べたに座ってるの?」

私はいつの間にはしゃがみ込んでしまっていたらしい。ハッとすると持っていたはずの鞄も私の手を離れていた。一体いつの間に…!慌てて鞄を拾おうと思って見ると、その隣に手帳が落ちていた。多分、生徒手帳。拾って名前を見てみる。た、なか…

「僕のだよ」

すっと、手が伸びてきて私から手帳を攫っていった。あ、と思う暇もなく、私の手から奪われた。まだ見ていたのに。

「あの、名前は?」

気が付いたらそう聞いていた。別に、これは、よくドラマなんかであるように助けてもらった人にお礼がしたくて名前を聞いたわけでも、彼がかっこよかったから名前を聞いてしまったわけでもなくて、私はただ単純に彼の名前を知りたかったのです。だって、名字までしか読めなかったから。だってそんなの気持ち悪い。

「…、雲雀」

雲雀、くん。と私は心の中で反復してみた。雲雀くん。なんだかとても彼に合ってるなぁ、と思った。名は体を表す、逆も然り。らしい。

「早く、帰りなよ」

彼はそれだけ言うと黒い学ランを翻して行ってしまった。私の心臓はうそみたいに速いテンポだった。恐怖はどこかへ行ってしまったみたい。