「お嬢様、朝ですよ」

起きてください、と声を掛けながらカーテンを開ける。今日もいい天気だ。さわさわと庭の木が揺れて、あたたかい陽が降り注いでいる。窓を開ければふわっと爽やかな風が吹き込んできそうだ。「いい天気ですよ」と言って振り返ったが、彼女は布団に顔をうずめたままだった。まだ目が覚めてないみたいだったので「お嬢様、」としつこく声を掛け続けると、観念したように、もぞっと布団が動いた。不機嫌そうな顔が覗く。おはようございます、と言おうと口を開くより早く彼女の小さな声が聞こえてきた。

「気分が悪い」
「だ、大丈夫ですか?!」

慌ててお嬢様の額に手を当てると、彼女は驚いたように身をすくめた。手から伝わる温度はあたたかいが熱があるというほど熱いわけではない。でも、風邪だとしたらこれから上がるかもしれない。

「熱はないようですが。他に痛いところとかは?」

彼女の顔を覗き込んで訪ねるとバッと手をはねられた。何故か睨みつけられている。もしかして、軽々しく触るなとか、そういうことなのだろうか。少しむっとする。そんな、心配しただけなのに。

「私が気分悪いって言ったときは今日は放っておいてって意味なの!」
「今日はご予定があるのではなかったのですか?」
「いいのよ、どうせくだらないパーティなんだから」

女の子というものはパーティとかそういった類のものが好きだと思っていたのだが。いや、お嬢様となると毎日パーティ三昧で飽きてしまうとか、そういうことだろうか。自分の偏ったイメージに笑ってしまう。

「お父様が、私に会わせたいと言うやつにろくな人はいないの」

そう言ってまた布団を被ってしまった。なるほど、それは少しわずらわしいものなのかもしれない。
お嬢様は大変だなぁと思う。しかも、家の付き合いとかそういうのも考えなければならないのだから面倒くさいものだ。そりゃあたまにはサボりたくなるときだってあるだろう。拙者だってごめんだ。少しだけ同情した。

「本当に体調は大丈夫なのですね?」
「そうよ」
「よかった」

体調を崩されたのだったら、大変なことになるところだった。まだこの家の勝手に慣れていないときに寝込まれては困る。まだ拙者はほとんど右も左も分からない状況と言っても過言ではないのだから。お嬢様のお世話を仰せつかったからには仕事をこなさなくてはならない。自分で判断しなくてはならない状況にはなりたくなかった。

「分かったら放っといてちょうだい」
「そんなこと言って、本当に具合が悪いときはどうするんですか」
「本当に気分が悪いときは薬を持ってきてって言うわ」

例えばあのメイドさんだったら何も言わずとも察するのだろう。きっとこれはこの家での暗黙の了解だったに違いない。彼女は説明するのも面倒くさそうだ。そういえば、拙者が来た最初の日も具合が悪いと言っていたが、もしかしてこれだったのだろうか。

「分かりました。ではお嬢様は今日具合が悪いということにしておきましょう」

そういうと彼女は「え?!」と布団から顔を覗かせた。

「何を驚いてるんですか」
「説得したりしないの?」
「あいにくながら拙者にはまだそのスキルがありませんので」

それともお願いすればそのパーティに出席してくださるんですか?と聞くと「嫌よ」とはっきりした返事が返ってくる。ほらね。

「変なひと」

とお嬢様はそう言ってまた布団にもぐってしまった。ともあれ、あたらしい朝が始まったようだ。