( 物語はいつも唐突に始まる)
突然執事になってしまいました。
「バジル、お前今日から執事だから」 「…は?」 「いや、これお前に適任だと思ってよー礼儀正しいし大概のことは何でもこなせるし腕も立つしな」 「何を言っているのか分かりません最初からきちんと筋道立てて話してください」
親方様の話を要約するとこうなるらしい。 とある名家のお嬢様がいた。彼女には先日まで有能な執事とボディガードを兼ねる人物がいたが、彼は諸々の事情でやめてしまった。そこで後任が見つかるまでの間彼女の身の回りの世話と護衛をする人物を貸してくれとうちに依頼された。以上説明終了。これだけのことを親方様は回りくどく言った。それは単なる言い訳のようにも聞こえた。
「何で拙者なんですか」 「お前が一番適任なんだよ。ボンゴレ内は今そんなに人を割ける状態じゃないしな」 「断れなかったんですか」 「無理だ。名家中の名家だぞ」
面倒なことになるのはごめんだからな。 その家は底まで大きな力を持っているのか。ボンゴレに多少なりとも影響を与えるほどの。いったいどこの家なのでしょう。親方様に聞いてみたけれど行けば分かる、と答えは得られなかった。
「そこの当主から直々に頼まれたんだ。次の正式な護衛役が見つかるまでの間だ」 「それはどれくらいですか?」 「1週間だけだ。相手方もその間にきちんと後任を見つけてくると言っている」
1週間なんてあっという間だぞ、と拙者があまり乗り気でないのを察したかのように言う。昔だったらこのまま頭をわしわしと撫でられていただろう。しかし今の拙者の頭はあまり撫でるのに適切な位置になかったので。相変わらず気分は変わらないけれども拙者も笑顔を作る。少し弱々しい笑顔になってしまったかもしれない。親方様に付いていきたかったなんて、わがままは言えないのに。
「バジル、任せられるな?」
親方様にそういわれては拙者も断ることはできない。これは単なる親方様のお願いではなく、立派な任務なのだ。親方様は信頼して自分に頼んでいるのだ。それをどうして断ることができるだろうか。
「分かりました」
そう答えると親方様はニッと笑って、「お前とは年が近いからな。きっとすぐ打ち解けられるだろう」とも言った。さて、そのお嬢様とはいかなる人物なのか。
「急な話で悪いな。すぐ出られるか?」 「はい」
任せてください。そうして拙者はお嬢様の執事兼ボディガードのような仕事をすることになってしまった。相当な人手不足らしい。
*
着いたお屋敷はとてもとても広かった。そして名は拙者でさえもボンゴレ内で聞いたことのあるものだった。家。マフィアではないが、大きな影響力を持っている家だったはずだ。本当に名家だったのだ。こんなところでやっていけるのか、と一抹の不安を覚える。振り返ると門が遠くに見える。ひとりのメイドが出迎えた。
「お待ちしておりました。こちらです」
屋敷の中に入る直前、ふと上を見上げると二階の窓に人影が見えた気がした。カーテンの陰から、じっとこちらを見ていた人。なんとなく、彼女がこの家のお嬢様のような気がした。窓掃除をしているメイドのひとりかもしれなかったが、直感でそう思ったのだ。
メイドにこの家にいる間自分にあてられた部屋に案内された。屋敷の中は歩きながら軽く説明された。屋敷は広くこれを隅から隅まで把握し、これから働かなくてはならないのかと思うと気分が沈んだ。
「えっと、お嬢様は」 「お嬢様は今日はお加減があまりよろしくないとのことです」
あなたには明日お会いすると仰っていました。それを聞いて内心ほっとする。ずっと、緊張していたのだ。自分はお嬢様と呼ばれる身分の人に会ったことがないし、しかも執事の経験もない。今日いきなり言われて来たものだから心の準備さえも出来ていなかったのだ。
「今日はもうここでお休みになってください。明日お嬢様のところへご案内いたします」
どのような人だろうと、まだ見ぬ“お嬢様”に思いを巡らす。しかしマフィアがそんなお嬢様に仕えていいのだろうか。まぁ、元々ボンゴレと繋がりのある“名家”なのだからいいのかもしれないが。それでもお嬢様はお嬢様だろう。さっきのメイドの態度を見ていれば分かる。きっと絵に描いたようなお嬢様な予感がする。今さらになって面倒なことを引き受けてしまったなぁと
すこし後悔した。
|