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どうして今までこの気持ちを必死で隠そうとしていたのだろう。初めて彼を特別だと感じたあの日から逃げれるものじゃなかったのに。もしくはあのとき誤魔化さないければよかったのだ。
09
彼に彼女が出来たと聞いたあのときの演技が嘘みたいに、今の私からは心から流れ出たままの感情だけが表に出ていた。それでも孝介が私の頭の不器用に、でもやさしく撫でるので。続きを言わなきゃって思った。言い訳じゃないけれど、理由を告げて、それから今さら迷惑なこと言ってごめんと、もう一度謝らなきゃ。そのために口を開く。黙り込んでちゃだめだって自分に言い聞かせる。
「孝介の、彼女さんに好きならはっきり言ってこいって言われて」 「あーなるほど。あいつからきたメールはそういうことか」
多分お前がこれから来るだろうから
生意気なこと言ってごめんなさい、騙しててごめんなさいって謝っといてくれってさ。と彼は言った。あの子とメールしてるんだ。当たり前のことだけれど、なんとなく現実を見るまで実感がない。そのメールでふたりだけの繋がりで私のことを話してる。それがこんなに嫌なんて。一人前に嫉妬してる。ばかみたい。内容も気に入らない。ごめんって何が?
「孝介、あの、放して?」 「やだ」 「でも、彼女さんが、」
彼女がいるのにこんなことをしないで。子どもの頃と同じようにしないで。痛いよ。ねぇ、心臓が誰かに握られてるみたいに。彼に触れている額が、肩が、手が回されている背中が焼けるように痛いと感じる。この間手を掴まれただけで壊れそうだったのに。
「だってオレあいつと付き合ってねーもん」 「え?」 「あいつが好きなのは浜田だぜ?」 「うそ」 「本当」
そういう孝介の目には嘘がなくて。ああ、だからさっき彼女はああ言って私の背中を押してくれたのかと理解した。あのとき彼女は誰を思っていたのだろう。
「あいつに協力してくれって言われて、何でか彼氏のふりまでしてくれって言われて」
お前が動揺するかと思って便乗してちょっと言ってみたら動揺するどころか平然とおしあわせにとまで言われるしよ。と、そこまで言って彼は言葉を区切ると口元を押さえた。「オレすっげぇ格好悪い」私から目を背けた。
「なんですぐ冗談だって言ってくれなかったの?」 「だってお前があまりにも薄い反応すっから引っ込みつかなくなっちまったんだだよ!」 「その後家来んなとか言うし!」 「お前が無防備すぎっからだよ!」 「なんでそんなこと言ったの?」
本当に、嫌われたかと思ったのに。幼馴染の私の存在を邪魔だと思っていると。好きな子がいるのに、幼馴染という近い女の子の存在は邪魔以外の何でもないから。いつまでも我が物顔で隣に居座る私なんて、嫌われて当然だと思ったのに。
ずっと、ずっと好きだったくせに何も言わないで、幼馴染っていう曖昧な関係に逃げてた。今のままでも孝介は私の隣にいてくれるからいいんじゃないかって思ってた。孝介は私に甘いから、それでいいんだって勘違いしてた。私のこの感情はそれですまされるものじゃなかったのに。この想いは幼馴染としてじゃなくて。後悔している。だって、君の笑う顔が好きで、いつも私を呼ぶその声が好きで、今も私の頭の上に置かれているやさしい手が好きだった。孝介はなんだかんだ言って私の側にいてくれて。高校に入ってからは学校で話すことはほとんどなくなったけれど、孝介は私が会いに行けばいつだって迎えてくれた。それがずっと嬉しかったよ。私はそれをうまく伝えられなかったかもしれないけれど。きちんと言えばよかった。ねぇ、気付かなかったかもしれないけれど、本当はこれからもずっとずっと君の隣に入れたらと思っていたんだよ。
「オレから言おうと思ってたのに先越されちまったな」
そう言って彼は向き直ると、正面から私を見据えた。ねぇ、もしもの話だけれど。こんなこと思うなんて自意識過剰だと笑ってくれてもいい。ひどい勘違いだと笑って構わない。でも、もしも、君も同じことを、私に対して想っていてくれていたとしたら
「ずっとが好きだった」
そう言う彼は私が今まで見たことも無いくらい格好良い表情をしていて。少し知らない人みたいに見えて、ねぇ惚れ直してしまったと言ったら笑うかな?
(永久不変)
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