教室に帰ってくると途端に友達が目を輝かせてやってきて、案の定質問攻めにあった。「イズミって誰?」「付き合ってたの?聞いてないよー」「でも別れたの?」「てか今の人とはどういう関係?」浜田さんはただの知り合いで、今のは全部彼の勘違い。私は誰とも付き合ってないし、当然別れてもいない。そう告げると友達はやや不満そうな顔で「えー」と言った。私は嘘は言っていませんよ。全部事実です。「ほら、もう授業始まるよ」と言うと友達はぶーぶー言いながらも散っていった。今この場で私の本心を明かす必要はないよね?もう少し、もう少しだけひとりで考えさせてね
 

04


彼のことを考えないようにするのは簡単だ。何かに夢中になればいい。授業中だったなら必死でノートを取ればいいし、先生の話に熱心に耳を傾ければいい。そうすれば1日の大半を乗り切れる。けれども、ふとした瞬間に思い出してしまうときがある。集中力が切れた瞬間、ぽっと頭に思い浮かんでくるのはいつも彼のことで。そして彼のことを考え出すと止まらなくなる。すこしぐらい、わすれさせてよ。頭の中から彼を追い出してまた授業に集中するのは大変で、ついついぼーっとしてしまう。そんな日を何度も何度も繰り返してた。この日もそうだった。

ちょんちょん、と肩を突かれてふと我に返るといつの間にか授業は終わっていたみたいで教室内はざわついていた。いったいいつの間に、と頭が混乱する。少し、眠ってしまったのだろうか。すると「、」と名前を呼ばれて慌てて振り返る。後ろの席の巣山くんが少し怪訝そうな顔でこちらを見ていた。「大丈夫か?」

「あ、ごめん、ぼーっとしてて。何?」
「泉が、」

と彼が指差す方を見ると教室のドアの前に孝介が立っていた。栄口くんと話してる。あの日から初めて彼の姿を見た。ガンと軽く後頭部を殴られたような感覚がする。孝介、孝介孝介こうすけ。今までこんな風に胸が締め付けられるほど焦がれることなんかなかったのに。

「泉がどうかした?」
「いや、今は栄口が気付いて寄ってったけど、ずっとの方見てるみたいだったから」
「えー、巣山くんに用があったんじゃないの?」
「オレとは目合わなかったけどな」
「泉が私に用あるわけないよ」

あるわけない。現に今彼は栄口くんと話してる。きっと野球部のことで何か用事があったに違いない。孝介がじっと私を見てるなんてこと、あるわけないじゃないか。逆ならまだしも。彼なら用事があるならきっとさっさと呼ぶか相手のところへ行くだろう。だから、きっと孝介は気付いた巣山くんが来るのを待ってたんだ。だけれども、巣山くんはなぜか孝介が私を見ていると勘違いして、…。うん、こちらの方が辻褄が合っている気がする。孝介が私に用事なんてあるはずないもの。

「そっか?」

と巣山くんはもう一度前のドアを見たので私もつられて目をやる。そうだよ、と心の中で返事を返す。孝介はもう用は済んだみたいで栄口くんと別れるところだった。じゃあな、と彼の口が動いたのが分かった。そして私はそのまま目をそらしてちゃんと前に向き直った。それ以上巣山くんも何も言わなかったから、私はこてんと机に突っ伏す。

なんで孝介は1組に来たのかな。孝介がうちのクラスに来るなんて珍しいことなのに、どうして私が姿を見たくないって思っているときに来るのかなぁ。もう来ないでほしい。せめて私が教室にいないときとかに来てほしい。来るなら私が分からないようにしてほしい。今巣山くんは親切で言ってくれたのは分かってる。だけど本当は知らせないでほしかったよ。彼女とふたりでいるところじゃないからまだ良かったけれど。いや、本当に彼はひとりだったのだろうか。もしかしたら私が気付かなかっただけで彼女も一緒にいたのかも。もしかしたら1組に用事があったのはその彼女の方で、孝介はそれに付き合って来ただけだったのではないだろうか。考え出すとそっちの方が理由としては自然なように思われた。可能性はなくもない。と、全て嫌な方へ考えてしまう。

なんで私、こんなに孝介の彼女のこと意識しちゃって、ばかみたい

こんなにも変わってしまった自分に驚く。結局は彼女に嫉妬しているだけなのだ。そして突然のことに混乱している、ただそれだけ。元々孝介とは会う回数はそんなになかった。今まではそれに対してなんとも思わなかったのに、会わないとはっきり決めてからはそれがこんなにもつらい。なんで、いったい私の何が 変わってしまったの?