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彼に彼女が出来たからといって私の生活に特に何か影響が出るわけでもなくて、はっきり言えば変わらないことの方が断然多くて。以前と同じ様に毎日が過ぎていく。当たり前のことなのに私にはなぜだかこの上なく不自然な出来事に思えた。変わった点は彼と会わなくなった、ただそれだけのことだというのに。世界のすべてが豹変してしまったように感じてしまうのはなぜ?
03
昼休み、ガラガラッと勢いよく教室の扉が開いた。大きな音についそちらを振り返ると入ってきたのは浜田さんだった。浜田さんは中学のとき孝介の先輩だった人で、つまりは私の学校の先輩でもあったのだけれど私とは直接面識はなく、西浦に入って初めて孝介に同級生として紹介された。浜田さんはフレンドリーな人で今は仲良くさせてもらっている。しかもなぜか彼の方は以前から私のことを知っていたらしい。私が浜田さんと呼ぶと孝介は「こいつにさん付けする必要ない」と言っていたけれど。また孝介のことを少し思い出してはズキズキする痛みを振り払うように、「あ、浜田さん」と声を掛けようとすると彼は一直線に私のところへ駆け寄ってきた。
「ちゃん!泉と別れたって本当?!」
あまりにも突然のことで私は思わず「は?」と声を上げてしまった。私が、誰と、別れたって?私が孝介と?いったい彼は何を言っているのだろう。別れるもなにも、私たちは元々付き合っていなかったのにいったい何をどうやって別れると言うのだろう。「ねぇ、どうなの?」と彼はなおも詰め寄る。
「ちょ、浜田さん、」 「なんで?あんなに仲良かったじゃん」 「浜田さん、ちょっと待ってください。何か誤解して、」
浜田さんの大きな声にだんだんクラスの視線が集まってきているのを感じた。注目されて私の顔がだんだん熱くなってくる。とりあえずこの場を離れなきゃ。このままじゃあクラス中に誤解されてしまう。まだ何か言おうとする彼の手をぐいぐい引っ張って、なんとか教室から出る。「え、どこ行くの?」「ちょっと黙っててください」なるべくあまり人気のない廊下まで来てから私は改めて浜田さんに向き直った。
「いったいどういうことですか?」 「だって、泉がクラスの子と付き合ってるって」 「だからなんで私と泉が別れたことになるんですか」 「え、じゃあ別れてないの?もしかして泉の二股?」 「違います」
元々私たちは付き合っていませんから、と告げると彼は「へ?」とすっとんきょんな声を上げた。「そうなの?」と。「そうなんです」と返す。そうなんです、私と孝介は元々なんの関係もない他人同士だったんですよ、と。すると浜田さんは見た目にもシュンとして、とても申し訳なさそうに私を見た。
「ごめん、オレすっごい勘違いして、」 「誤解が解けたならいいです」 「…本当に付き合ってないの?前は?」 「今まで一回も泉と恋人同士だったことはありませんよ」
「うっそ」と彼はまた驚いた声を上げる。オレはてっきりちゃんと泉は中学の頃からずっと付き合ってるんだと思ってたよ。ズキっとした。私たちは、そんな風に見えていたのだろうか。他の人にもそういう風に見られていたのだろうか。残念ながら誤解ですよ、私はニセモノだったんですよ。そのポジションにいるべき人物は私ではなかったんですよ。心の中で誰ともなしにそう告げる。
「私と泉はただの幼馴染ですよ」 「でも中学のとき、時々見かけたちゃんと泉は付き合ってるように見えたよ」 「でも付き合ってなかったんです」 「少なくとも泉はちゃんのこと好きだと思ったけどなぁ」
高校になって改めてちゃん紹介されたときもそう。泉は何にも言わなかったけど絶対この子泉の彼女だなって思った。あいつがちゃん見るときの目、すっげー優しかったもん。 浜田さん浜田さん、そんなこと言わないでください。全部今さらだったんですよ。現実は違うんです。だからもう、それ以上言わないでください。心臓が握りつぶされてしまいそうだから。
「私と孝介は、そんなんじゃありません」
今までだってその事実は横たわっていたし、私自身に何度も聞かせた言葉だった。それなのに、こうして口に出して言うとより一層それが現実のものとなっていくようで。私たちが本当に浜田さんが思ってたような関係だったら良かったのになぁ。
「ちゃんは、泉に彼女が出来たって知ってたの?」 「2日くらい前に本人から聞きましたよ」 「そっか。オレはさっき初めて知って」
驚いてそのままちゃんのところに来ちゃったんだ。ごめんね。と、彼は申し訳なさそうに言った、そんな、浜田さんが謝ることじゃないのに。そりゃ、急に彼女が出来れば誰だって驚きますよ。
「今まで何も言わなかった泉が悪いんですよ」 「そーだよな!あいつ今までまったくそんな素振り見せなかったくせにさ」
浜田さんも知らなかった。私も全く気付かなかった。きっと、誰も知らなかったのだろう。孝介はいつからその子のことが好きだった?私といるときもその子のこと考えてたり、したのだろうか。ねぇ、私が孝介のこと想うみたいに。
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