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自分の気持ちに気付くのが遅すぎたね。本当は気付いてたのに気付かないふりして、その結果がこれ。自業自得以外の何ものでもない。それなのに、この気持ちは今まで以上に私の胸を締め付ける。
02
どうやら孝介の彼女は9組で、彼とはクラスメイトだったらしい。昨日別れ際にそう聞いた。きっとクラス内でもよく喋っているんだろうな、と思った。私のクラスは1組で彼のいる9組とは教室が一番遠い。入学当初は「せめて隣のクラスが良かったなー。教科書忘れたら借りれたのに」と笑って言ってたけれど、今は遠くて良かったと心の底から思う。一番離れていて良かった。1組と9組はお互いに廊下の端っこだからクラスの前を通ることはほとんどない。よかった。孝介とその女の子が一緒にいるところも見ないですむから。もし同じクラスだったら耐えられなかったかもしれない。 すき こんなに、私の中に醜い感情があるなんて知らなかった。こんなに、彼のことが好きだったなんて、知らなかった。どうして失ってから気付くんだろう。手の中から零れ落ちたあとに。ずっと少し手を伸ばせば届く場所に、彼はいたのに。どうせなら知らないままで良かった。 すき 私はきっと甘えていたのだ、幼馴染という関係に。ずっと本当は好きだったのに、幼馴染というだけで彼の近くに置いてもらっていたから。ひどく恋人に似た関係だと勘違いして、それで満足していたのだ。私は何もしていないのに手に入れたつもりになっていた。何の努力もせずに、一歩踏み出す勇気すら出せずにいた私はただの臆病者だったのだ。 すき 彼のこと、何でも知っていると思い込んでいて、彼に誰か特別な女の子が出来るなんてこと考えもしなかった。可能性はいくらでもあったのに。孝介は高校になってから以前よりモテるようになったと思う。時々女子トイレで野球部がどうのこうのという会話をよく聞くし、その中に明らかに彼を差す内容もあった。その度にチクリと針が胸に小さな穴を開け、その度に私は小さな優越感に浸っていた。最低だ。 すき 結局昨日、孝介の彼女になった女の子の名前をもう一度聞き返して教えてもらうことはしなかった。それで良かったのだと思う。きっと知ってしまったら私はその子のことが気になって気になって仕方なくなってしまうだろうから。きっとどうしたって意識してしまう。噂話の中にその子の名前が出てこないか、友達との会話にふと彼女の名前が現われやしないか、と。 すき もう、孝介にあいたくないな、と思った。さいわい、学校内で会うことはほとんどない。今までだってお互いの家に行かなければ私たちが顔を合わせる時間は全くと言って良いほどなかったのだ。ほんのたまに廊下ですれ違うぐらい。遠目でお互いに友達と一緒に歩いていたりして声を掛けることもしない距離。私と彼の、本来の距離。孝介の家は私の家から2軒先の向かいでとても近いのだけれども、朝は彼の方が私よりずっと早く家を出て、帰りも彼の方が遅いから登下校でかち合うこともない。避けるのは簡単。きっともう孝介が私の家に来ることはないだろうから、あとは私が泉家に行かなければいいだけ。それだけ。泉家とは私たちが幼稚園に入る前から家族ぐるみの付き合いで、親に用事を頼まれることもあるけれど忙しいと言って断ることは出来るはず。大丈夫。簡単だ。なんて、あっけないのだろう。たったそれだけの関係だったのに。 すき どうしよう、気付いてしまった。遅すぎるのに。なのに、だんだんこの気持ちは大きくなってきて、手がつけられなくなっていく。孝介に彼女が出来てからこんな風に強く思うなんて都合が良すぎると自分で自分自身を叱る。時間が解決してくれるだろうか。そうであってほしいと願う。私はただ突然のことで混乱しているだけなのだと。もう今さらこの気持ちを本人に告げることなんて私には出来やしないのに。あのとき「おしあわせに」と言ったのも他でもない私自身だというのに。膨らむばかりのこの気持ちを消す方法を、誰か教えてください。
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