気合を入れなおしたからって、何かが劇的に変わるわけでもなく。
 

06


昼休み、今日は友達と天気が良いので中庭でご飯を食べていた。ぽかぽかの太陽の下で他愛の無い話に花を咲かしていると、「あ、」と友達が小さく声を上げた。

「どうしたの?」
「え、うん。えっと、先生に呼ばれてたの思い出して」

私がきょとんとした顔をしていると彼女は「部活のことで」と付け足した。彼女は割りと真面目な性格で呼び出しをくらうなんて意外に思ったが、そういうことかと納得した。

ごめんね、先に教室帰ってていいから」

そう言って彼女は不意に笑顔を見せるとパタパタと走って行ってしまった。残った私は彼女の後ろ姿に手を振って、パックのお茶をずずずとすすった。さて、これからどうするか。昼休みはあと10分ぐらい残っている。お弁当も食べ終えてしまったし今すぐ教室帰るか、それとももう少しここで日向ぼっこしていくか。どうしようかな、なんて考えていたら、見知った姿が見えた。

「あ、浜田ー!」

そう声を掛けると彼は振り向いて、いつもの笑顔で「じゃん」と言ったので私は小走りで彼の元へ駆け寄る。

こんなところで何してんの?」
「良い天気だから友達と外でお昼食べてたんだ」

でも丁度今友達が先生のとこ行っちゃって、と言い掛けて私はハッと気付いた。もしかして、彼女は浜田がこちらに歩いてくるの見えたんじゃないかなって。あの笑顔はそういう意味だったんじゃないかなって。考えすぎだろうか。でもタイミングはばっちりだった。私は今、浜田とふたりっきりだ。友達が気付いていたのかどうかは分からないけれど、この状況はチャンスじゃないのか。

「そういえばさ、浜田にずっと言おうと思ってたことがあるんだけど」

私は一体何を言うつもりだったのだろう。「何々?」と浜田がこちらに視線を向ける。なんて言おう。伝えて、しまっていいのだろうか。ここで?そんなことばかりがぐるぐると頭の中を巡る。とにかく、なんでもいいから言わなきゃ。そう、次の授業のことでも何でもいいから。私が言おうと口を開いた瞬間だった。

「浜田ー!」

と上から声が降ってきて、見上げると校舎の二階くらいから知らない女の子がこちらに向かって笑顔で手を振っている。見たことのない子だ。きっとひとつ上なのだろう。そう思うと心臓がキュッと締め付けられた。嫌だ嫌だ。どうしてあの子はわざわざあんなところから浜田に声をかけるの?なんで、どうして。浜田は今私と話していたのに。

「あの子、誰?」

少し声がかすれてしまったかもしれない。でも浜田はそれに気付いた様子もなく、それどころか私の言葉が届かなかったかのように、こちらを振り向いたりはしなかった。少し小さい声だったけれど、普段はちゃんと気付いてくれるのに。浜田、こっち向いてよ。

「先、帰るよ?」

私が元来た方向に歩き出しても浜田はまだ喋ってる。楽しそうな浜田。二階の女の子。私だけ置いてけぼりになった気分になった。振り返ってよ。気付いてよ。そんな子とのお喋りに夢中になってないで。さっきまで話してたのは私でしょ?浜田が今一緒にいるのは私だよね?浜田と窓から話す女の子との会話には私の聞いたことのない人の名前もいっぱい出てきた。浜田は私の名前を呼んでくれないから、私は立ち止まれない、振り返れない。

ねぇ、浜田。もしかして、本当は気付いてる?私が浜田に恋してるってこと。気付いてないなら、早く気付いてよ。こんな風に嫉妬ばかりしている自分は嫌いだ。もし浜田がはっきりとした返事をくれたら、こんな気持ちになることもないのかもしれないのに。きっと中途半端だからいけないんだ。はっきりしてほしい。浜田の気持ちを浜田の言葉でほしい。

どうしよう、心臓が痛くて死んでしまいそうだ。

今自分がものすごく苛々しているのが分かる。嫉妬しているのだ。浜田にこっちだけを見ていてほしい。私だけを見ていてほしい。他の子と、特に私の知らない人と喋るのはやめてほしいだなんて、そんなこと言えないのに。不安で不安で仕方ない。私は本当は浜田のこと全然、知らないから。クラスでの浜田しか知らない。知りたい、知りたい、知ってほしい

教室に帰ると野球部の三人は寝ていた。一番手前にいる泉の寝顔を見ながら、こいつが余計なこと言わなければ、と恨めしく思った。そもそも泉もまだ片思いのくせに。さっさと告れよ、男らしくない。話聞いてりゃ、絶対あの子泉のこと好きじゃんよ。むしゃくしゃしたので泉の鞄の中に突っ込んであった泉の携帯を取り出して一通のメールを送った。 私は何をしたかったのかな?もしかしたら自分に嫌気が差していたのかもしれない。頭がぐわんぐわんしてしかたない