、」と浜田に名前を呼ばれてドキッとした。一瞬返事をするのに躊躇した。返事をするのが怖かった。実は朝から浜田にこうして話し掛けられるのを恐れていた。名前を呼ばれたその次に何を言われるのか聞きたくなかったから。「昨日、」昨日のことで何を言われるのだろう、とすごくすごく怖くて。

「昨日、英語のノートサンキュー。おかげで終わったよ」

なんてことはない。いつもの浜田だ。そうして「どういたしまして」と言ってノートを受け取る。普通の会話。だけどどこかぎこちないのは私だけ?
 

04


今日はいつも一緒にお昼を食べている友達が部活でいないため近くの席で食べている野球部の会話に加わることにした。そこには浜田もいたけれど素知らぬ顔をした。私から避けても仕方ない、それが昨日散々悩んで出した答えだ。浜田だって今のところ私を避けている様子はないように見える。かといって、私に特別好意を抱いているようにも見えない。泉はやっぱりでたらめ言っていたのではないかと思う。それでも泉が何か行動を起こせと言うので、私は彼を信用してみようと思います。だって、何か行動しなければ状況は何一つ変わらない。それだけは分かる。昨日の作戦会議で出た案をひとつやってみようかなって思った。

「泉、はい、あーん」

と、箸でぶっ刺した卵焼きを彼の方に突き出す。演技と言うにはあまりにもおざなりだと思う。だが、これが精一杯だ。泉は一瞬ものすごい顔でこっちを睨んだ。ものすごく、嫌だって顔。怖いですよ泉くん。でも負けじと睨み返してやる。こっちだって泉の弱みを握っているんだから怯むことはない。私たちの無言の戦いの後泉が折れて、観念したかのように彼は卵焼きを頬張った。ちなみに作ったのは私の母さんだから味は安心だ。あー、おかず減ったのはもったいなかったかな。と思っているとガタガタと盛大に椅子が倒れる音がした。

「何、これ?マジで?」

見ると青ざめた浜田が立ち上がっていた。これは、もしかして動揺してる?浜田は、泉とが、とぶつぶつ言いながら私たちを交互に指差す。大きな音で一瞬クラスの視線がこっちに集中した。余計な誤解されなきゃいいんだけど、と私は心の中で思った。そして、今泉にした少女漫画みたいな行動を誰にも見られてませんように、と願った。

「ちょ、ありえねーだろ…」

そして浜田は「気持ち悪い!」と叫んでそのまま走って教室から出て行ってしまった。残された私はどうすればいいのだろう。今の反応はどう捉えたらいいのだろう。動揺はしていたけれど。私は浜田の出て行ったドアの方を向いたまま、パックのお茶を飲んだ。するとぽかんと口を開けたまま止まっていた田島と三橋がハッと意識を取り戻したかのように活動を再開した。特に向かいに座っていた田島はこちらに身を乗り出して矢継ぎ早に質問してきた。「どういうこと、どういうこと?」

「えー、何で泉とがこんなラブラブになってんのー?気持ち悪い」

やっぱり皆気持ち悪いと思ったのか。私はがっくりと肩を落とした。第一私も泉も、人前であーゆーことするタイプじゃない。誰でもそう思うだろう。「何の冗談?」と田島に聞かれた。やっぱりあんな無理矢理すぎる演技じゃ、冗談にしか見えないか。

って浜田のこと好きなんじゃねーの?」

飲んでいたお茶を盛大に噴いてしまった。しかもその後「どどどどうして」と明らかに図星ですと言うような返事をしてしまった。もう最悪だ。もしかして私って分かりやすい人間だったのだろうか。まさか田島にばれているなんて。

「そりゃ分かるよー!ばかにすんなよな」
「ほらな。オレの言った通りだろ。気付いてねーのは浜田本人ぐらいだっつの」
「は 浜ちゃんも、さんのこと すき だと思う!」

三橋の言うことは信用ならないなぁ、と苦笑する。信用できないというか、きっと三橋の言う「すき」は私のほしい「すき」とは違う気がする。たぶん、友達として気に入っている、に近い意味を持つんだと思う。そりゃそういう意味なら浜田は私のこと好きだろうよ。でもそれは泉や田島や三橋と同じ。そもそも浜田が誰かを嫌うことって滅多にないと思うから。

「だってお前らふたり前から妙に仲良かったし」

は浜田と話してるときはオレ達のときと違ってすっげー楽しそうだしさ、と田島が当然のことのように言う。まさか田島がこんなに見てるとは思わなかった。何にも考えてなさそうな顔して、意外と見てる。田島は鋭いなぁ。

「他のやつらは知らねーけど、いつも一緒にいればさすがに気付くっつの」

そんなに分かりやすかったのか。だったら、浜田は気付いていたのかな?私の気持ち、ずっと気付いていたのかな。分からないよ。浜田は一見単純でものすごく分かりやすそうに見えるけど、私には浜田の考えてること、分からない。

「浜田は?」
「どっか行っちゃったなー!つか、泉とがあんなことすれば誰でも驚いて逃げるよ」
「作戦失敗かぁ」
「作戦?」

どうして、私は浜田に嫉妬してほしいなんて思ったんだろう。ううん、そもそもどうして浜田が嫉妬するなんて思ったの?する訳ないじゃん、浜田は私のこと何とも思ってないんだから。きっと、ただのトモダチに違いなかったのに。知っていたはずなのに、どうして私は今傷ついてるの?

ー、早く浜田呼び戻してこいよー!」
「嫌だ。泉行って」
「はぁ?何でオレが行かなきゃなんねーんだよ」

とてもじゃないけど、今の状態じゃ浜田とふたりきりで顔をあわせられない。私は浜田にどんな反応を望んでたんだろう。どれだけ期待していたんだろう。ばかみたい。口ではありえないと言っていても心のどこかで期待していた。もしかしたらって。その気になってた。最初はダメで元々、ぐらいの気持ちだったのに。どうして、どうして。