|
ふと手に何かが触れた。そう思うとそれは少し躊躇いがちに私の手を握った。驚いて隣を見ると、泉くんとばっちり目が合った。少し不機嫌そうな「何か文句ある?」とでも言いたげな目でこちらを見ている。そんなことを思っていたら泉くんが
「何?」
と聞いてくる。あまりその目で見ないでほしい。私は何となく彼のその視線に耐えられなくなる。彼に見られるとどうしても一週間前の放課後に引き戻される。
「好きだ」
と真っ直ぐに私を見つめて言った彼の言葉は忘れたくても忘れられないものだと思う。だから、私は泉くんが本気で好いてくれていることは知っている。でも、私はそれに返す言葉を持っていなかった。
そんな曖昧な気持ちなのに、何故か私達は一緒に帰っている。どうしてこうなったのか、私はあのとき必死すぎてあまりよく思い出せない。多分勢いに押されて「うん」と答えてしまったのだろう。そのあと泉くんは「嫌ならいつでも断っていい」と言ってくれたけれど、いまだにそれは続いている。
泉くんは野球部で活躍してて人気あるし、背はそんなに高い方ではないけれどもさっぱりした男前な性格してるし、かと思えば9組の野球部員とつるんでいるときは子供っぽい笑顔を零したりして、それが可愛いと思ったり。そんな風に好感が持てる部分が多いわけで、好きになってもおかしくない。全く彼に問題はないのだ。実際、結構いいなーと思ってたりした。格好良いなぁ、と。あんな子が彼氏だったらいいなぁと思ったりもした。けれどもそれが恋なのかと聞かれると返答に困る。
例えば7組の阿部くんとか私のこときちんと叱ってくれそうだし、花井くんとか引っ張っててくれそうだし、同じ組の田島くんと一緒にいたら毎日楽しそうだし。彼らが泉くんと何が違うのかって私ははっきり答えられない。そんなことを考えていたらきりがない。こんなんじゃ、誰でもいいんじゃないかと思われそうだけれど。
でもあれから朝も夜も泉くんのことばかり考えてしまうようになった。これって私も泉くんのことが好きってことになるのだろうか。ただ単に泉くんが何故か私のことを好きだというから、だから気になっているだけなのではないだろうか。自分に好意を向けられて嫌な気持ちはしないだろう。それを好きだと勘違いしてるのではないか。私は本当に泉くんが好きだと断言することはできない。自分の気持ちがよく分からない。泉くんに告白されて嫌じゃなかったし、泉くんに話しかけられるとドキドキしてしまうけれど、それって恋なの?と友達に相談したら「そりゃ完全に恋してるでしょ」と返された。でもやっぱり私にはピンと来ないんだ。
私はきっと夢を見ているんだと思う。運命の人、なんてそんな少女趣味なこというつもりはないけれど、きっと恋というものに無駄な期待を抱いているのだ。漫画やドラマの主人公のように波乱万丈な恋を自分が出来るとは思っていない、けれども恋とはああいうものだと思い込んでいるのではないか。だから平凡な私のこの気持ちは恋じゃないと思い込んでいるのかもしれない。好きってどういう気持ちなのだろう。
それでも私は信じられないほど胸がドキドキいっていて、顔に熱が集まるのが分かったから俯いた。泉くんに手を繋がれるのは嫌じゃない。ねぇ、私の運命の赤い糸の先にいるのは君なの?
「何でもない」
私はそう言ってほんの少しの力で彼の手を握り返した。私はこの気持ちを信じていいのかな。
この胸の高まりが不安なの
|