|
疑問を先延ばしにするのは良くないと分かっていたはずなのに。それでもその疑問を口に出してしまうのがこわくて。現実という形にしてしまうのがこわくて。 08 嫌われるのがこわくて、誰にでも良い顔して、優等生のふりをして。それは全部私が臆病だったからだ。私が親切だからじゃないんだ。私は何にもおびえて、当たり障りのないよう、ふわふわと流されながら生きている。彼とはあれっきり会わないままテスト週間も終わり、既にだいたいのテストが返却されていた。元々クラスが遠いから避けるまでもなく、彼とは関わりのない日々を過ごせた。それで良いのかどうかは別として。心の中はずっともやもやしている。 「、テストどうだった?」 「うーん、微妙」 「私もひどいよー。うちのクラスはやっぱりまた西広くんが一番かなぁ」 テストの点数は前回よりもほんの少しだけ下がっていた。あの日以降集中して勉強することが出来なかったから。気が付いたらあの放課後を頭の中で再生してしまって、後悔ばかりしている。どうすれば良かったのか、あんな経験のない私には考えたって答えは出なかった。あんな、漫画かドラマみたいな。ありえない。頭の中ではぐるぐると同じことばかり考えていたけれど、友達とはきちんと喋りながら帰り支度をすませる。「終わったことは忘れよう」なんて喋りながら、廊下へ出ようとしたそのとき、ふっと影が行く先を遮った。「あ、」その短い一言だけで、誰だか分かった。何度も頭の中で言葉を繰り返していた声だったから。 「あ、!」 なんでここに田島くんが?なんでわたしのなまえをよんでるの?彼は「探してたんだぜ?」と言いながら私の方へ駆け寄ってくる。私はいますぐ逃げ出したかった。また。でも今度は足から根が生えたように動けなくなっていた。そうしているうちに彼は私の正面に到着していた。逃げたい、逃げれない。 「見て!これ!」 ジャーンとご丁寧に効果音つきで目の前に広げられた紙。焦点を合わせてみるとそれがテストの解答用紙だということが分かった。そしてそこに書かれていた赤い数字はどれも50点以上だった。 「すごくね?これ全部平均点以上!」 何枚もテスト用紙を私の前に広げて、田島くんは嬉しそうに、誇らしそうに、胸を張って言う。「のおかげー」と顔を綻ばせながらいう。私は何もしてないよ、そう言うと彼は「んなことねーって!」と言ってしきりに感謝の言葉を言う。本当に、何もしていないよ。前日だって田島くんは質問があるって言ってたのに勝手に帰ったし。田島くんはあのあとその答え分かったかな?無責任でごめんね。まだこわくて、顔を上げることが出来なくて、ごめんね。 「オレいい点取ったから、今度の試合見に来てくれるよな!」 「え?」 「忘れたとは言わせないかんな!約束、したじゃんか」 「の手作りお菓子も!オレすっげー楽しみにしてんだから」忘れてない、きちんと覚えてる。だけど、それはもう無効になったと思っていた。きっと嫌な思いさせてしまって、もう田島くんとは関わりなく学校生活を送るんじゃないかと思っていたのだ。一緒に勉強することになったのだって、特に理由があったわけじゃない。ただ田島くんが気まぐれで私に声を掛けて、私がそれに流されただけだ。だけど、 「…テスト前日急に帰ったりしてごめんなさい」 「ん?気にしてねーよ。それよりも、見に来てくれるよな!」 田島くんはまったく変わった様子がない。私ばかりが気まずい思いをしているようにも見える。起こっている様子もなければ、出会ったあの日とまったく同じ様な態度なのだ。もしかして、あれは冗談だったのかな?冗談、というよりも、友達としての意味だったのだろうか。人間的に好きだという、そういう意味だったのだろうか。田島くんという人が分からなくなる。本意が見えない。でも、良く考えれば彼が私のことを好きになる要素など何もないのだ。けれども態度から嫌われていないことだけは分かった。彼が気まずさを微塵も感じていないことも。つまり、ただの友達、 「見に行っていいのかな…?」 「もっちろん!オレが頼んでんだって」 「野球、そんなに詳しくないけど」 「が見に来てくれればそれでいい」 「ルール分かんねーなら教えてやっから。今度はオレが先生だな」と楽しそうに言う。ああ、テスト前のあの出来事は私の夢か何かだったんじゃないかとさえ思う。田島くんのことはよく分からないけれど、なかったことにして気にしなければ、いいんだ。ごちゃごちゃして自分の気持ちにも整理がつかないから、それが一番いい。 「オレすっげー活躍すっから!」 「うん」 「そしたらオレに惚れちゃうかもな」 田島くんは野球が上手いっていう噂を聞くぐらいだから本当に活躍するんだろうなぁ、なんて考えていたから、そのまま聞き流してしまうところだった。あまりにもさらりと言うから私はそれに気付かないまま通り過ぎてしまうところだった。彼があまりにも当然のことのように言うから。驚いて顔を上げるとやはり笑顔の田島くんと目が合った。ドキッと何かに心臓を射抜かれた感覚がした。それはギクリにも近かった。 「っていうか、惚れさせてやっから。ゲンミツに!」 私は田島くんのこと、好きなのかどうか分からない。そんなの考えられない。だって田島くんと出会ったのはほんの2週間前なのだ。でも、それでも、少しずつ、 少しずつ (心を引きつける) |