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「丁度いい。、西広!ふたりでこの冊子作っといてくれ」と言う教師は本当学級委員を雑用係と勘違いしているのではないだろうか。いや、実際そうなのだが。先生は完璧に私のことを雑用係だと思っているだろう。何でもかんでも学級委員に頼めばいいと思ってはいないだろうか。今テスト前ですけど! 05 と思いつつも反抗できなかった私は、たまたまその場にいた西広くんと共にプリントをホチキスで止める作業に明け暮れていた。次のホームルームで使う資料だかなんだか知らないが、とにかく面倒くさい作業である。 「面倒くさいねー」 「そうだね」 そんな会話を交わしながらも手は休めない。早く終わらせたいな、と思った。田島くんは言わずともちゃんと昨日の問題の続きをやってくれているだろうか。テスト範囲を勉強し終わるかどうか微妙なところなので、私がいなくても出来る限り進めておいてほしい。さっき、遅れるとだけメールをしたけれど、大丈夫だろうか。なんとなく、教室で寝てしまっているような気がしてならない。その姿が安易に想像出来て、私は少し笑みを溢す。その瞬間ガラガラと派手な音を立てて教室のドアが開き、視線を上げるとそこには田島くんが立っていた。 「なんでこんなところにいんの?」 「あ、ごめんね、田島くん。ちょっと委員の仕事が」 「今日もオレに勉強教えてくれるって約束したじゃん」 「これ終わったらすぐ行くから」 田島くんの声に険があった。怒っている、のだろうか。田島くんの顔にはいつもの笑顔がない。ひたすらにこちらを見て、視線を外さない。睨んでいると言った方がいいのかもしれない。どうしたのだろう。事態を理解したらしい西広くんが、「さん」と声をかける。 「さんいいよ、行って」 「でもあとちょっとだし、やってから行くよ」 「これくらいオレひとりで出来るからいいって」 そうは言ってもまだプリントは残っている。ひとりで出来ない量ではないが、ふたりでやった方が速いのは明らかだ。テスト前で彼も早く帰って勉強したいだろう。 「でも、悪いし」 「いいよいいよ。気にしないで」 気を遣ってくれる西広くんに私はでもを繰り返す。私だって同じ委員なのに、彼にだけ仕事を押し付けるのは気が引けたのだ。こういうことはお互い様で、西広くんが何か用事があったときは今度は私が代わってあげればいいだけの話なのかもしれないけれども、「田島のとこ行ってあげなよ」西広くんは余計な気を遣っているような気がしてならない。 「もう来なくていい!」 突然田島くんが叫んだ。私は驚いて目を瞬かせることしか出来なかった。田島くんはいつも声は大きいけれども、こんな風に怒鳴った声を聞いたのは初めてだったから。彼は顔をキッと上げるとそのまま背中を向け、走り去ってしまった。「たじまく、」と呼んだ私の声も、伸ばした私の腕も、行き場をなくしたままだった。怒らせてしまった? 「ほら、追いかけなきゃ。本当にこっちはもう終わるから大丈夫」 田島、拗ねると面倒くさいよ?と西広くんは笑う。そっか、西広くんと田島くんは同じ野球部だっけ。私は野球部にあまり興味がなくて、練習とか見に行ったことも当然ないから、全くイメージが出来なかったけれど。私なんかより西広くんの方が田島くんのことをよく知っているわけだ。私は彼に背中を押されてやっと動くことが出来た。でも、私が廊下に出たときにはすでに田島くんの姿は見えなかった。体力測定1位というのは伊達じゃないらしい。私が今から追いかけたって追いつけないかもしれない。彼がどこへ行ったかすら分からない。田島くんに本気で逃げられたら追いつけない。追いつけない、 「田島くん、待って!」 けれど、追いついた。私を待っていたわけでもないだろう。田島くんは誰もいない静まり返った昇降口近くでひとり立っていた。私は息を切らして、彼の背中に話しかける。 「ごめんね、田島くん怒って当然だよね」 きちんとメールで理由まで打って送ればよかったのだ。謝罪の言葉さえなしに、ただ遅れると一言だけのメールでは納得出来ないのも分かる。私は田島くんと約束していたのに。 「なんでが謝んの…」 俯いたまま小さく彼が言う。私はそれに言葉を返すことが出来なかった。全速力で走ったせいで呼吸が荒い。こんなに必死で走ったのいつぶりだろう。「絶対は悪くないじゃん」わがまま言ってんのオレの方じゃん、と言う。きちんと伝えなかった私がいけないのに、田島くんの気持ち考えなかったのは私なのに。それでも田島くんは自分が悪いと言う。私は悪くないって。「それなのにオレ、サイテーだ」そんなことないのに。 「もしかして、オレ迷惑だった?」 「え?」 「無理矢理に先生頼んで迷惑だった?」 まるで小動物のような目で見られて私はドキっとした。 「そんなこと、ないよ」 「だってオレがいない方が集中できるだろ」 「いや、でも人に教えてると分かってるつもりで分かってなかったとことか確認できるし」 人に教えると自分も理解できていい勉強になってるというか。全然迷惑なんかじゃないよ、と伝える。うそじゃない、あんな目で見られて嘘なんて吐けない。最初は知らない人に勉強教えることに自信もなくて困惑した、けれど、田島くんと一緒にいること自体は嫌いじゃない。 「オレ、に勉強教えてもらってると楽しーんだ!」 さっきはごめんな、西広には明日謝っとくから!と笑顔を見せて言う。元の田島くんに戻ったみたいだ。眩しいくらい明るい笑顔。まるで何事もなかったかのように。 「よーし、今日も頑張るぞー!」 田島くんは笑顔の方が似合ってるな、なんてことを思ったりした。 |