梓弓ま弓つき弓年を経てわがせしがごとうるはしみせよ 
 

03



「えっと、ここは『なむ』があるから係り結びで、」
「係り結びって何?」
「係り結びっていうのは係助詞があると文末が連体形か已然形になるので」

と説明が面倒くさくなってきたので教科書のページを捲り、係助詞がまとめてあるページを見せた。「ここに書いてある」私の説明よりはこっちの説明の方が分かりやすいだろう。係助詞が全て表にまとまっていて一目で分かるのだから。投げやりな教え方ってわけではないんです、断じて。

「『なむ』ってのが係助詞?」
「そう」
「お!じゃあ、この場合はこの『ける』ってのが変わってるんだな」
「そうそう。助動詞『けり』が連体形『ける』になってるの」
「おおー!なるほど!」

カリカリと彼がノートにそれを書き込む。純粋に分かるのが楽しいみたいだ。と言っても、私は特に何もしていないのだけれど。ただ、授業の解説を書きこんだノートを彼に見せて、先生が言っていたことを繰り返しているだけだ。けれども、あまり授業を聞いていなかったらしい彼にとってはそれでも十分なものだったらしい。まぁ、先生の話って聞いてるとだんだん眠くなってくるしね。午後の授業だと特に。分かる、分かるよ、その気持ちは。

「つかさ、まずこの話の内容が分かんねーんだけど」
「んっとね、この話は想いあう2人が結ばれない話なんだよ」

あまりにも簡潔にまとめすぎた説明だと自分でも思った。しかし、現代語訳はノートにも書いてあるのだから、それ以上の説明は出来ないように思えた。やっぱり私は勉強教えるがうまい方ではないよな、と再認識する。もう少しうまい説明が出来れば良いのだけれど。 ふと時計を見ると勉強を始めてからもう随分と時間が経っていた。

「ちょっと休憩しようか。今日は結構頑張ったね」
「だいぶ分かったような気がする」

のおかげ!と彼が笑顔を向けるので私は嬉しくなる。あまり大したことはしていないのだけれど。田島くんは本当は頭が良いのだ。本気でやればあっという間に飲み込む。時々すごい集中力を見せたりもする。今までテストの点が悪かったのは単に勉強しなかったせいだろう。話を聞くとあまり真面目に授業を聞いていなかったらしいし。本人曰く「先生の声聞いてると、どーしても眠くなっちゃうんだよな」だそうだ。私は違うクラスなので彼の授業態度のことは知らないが、きちんとやれば良い点が取れるんじゃないかと思う。

「うおー、疲れたー」

彼が椅子の上でぐーっと伸びをする。そういえば、と思い出しポケットの中を探るとそれはすぐに指に当たった。握り締めて、手を彼の方に差出す。

「飴あげる」
「おお!勉強したあとはやっぱり甘いもんだよなー。の手作りお菓子とかねーの?」
「ありません!贅沢言わないの」

が作ったお菓子とかあればもっと頑張れるんだけど」なんて言う。今はテスト前でそんな時間ないということを指摘すると「んじゃあ、終わったらくれよな!」と懲りない。

「サンキュー」

飴を頬張って言う。そういう風に笑顔でお礼を言ってくれるから、私はそのたびに嬉しくなるのだ。きっと、こういうことが自然に出来る彼はいい人なのだろう。
梓弓引けど引かねど昔より心は君に寄りにしものを