「うーん、キミのこと好きになっちゃったみたい」
「は?」
手にしたハタキから埃がぽとりと落ちた。
私の不躾な返事にも彼は気を悪くすることなく言葉を重ねた。
「だから、俺、キミのことが好きみたいなんだ」
ニッコリと笑顔で彼が言う。眩しい笑顔だと思う。
「……冗談は休み休み言ってください」
こんな冗談めかした言い方で誰が本気と捉えるのか。しかも相手はあの十三冠のひとりだ。きっと好きというのもお気に入りの手駒のひとつくらいの感覚なのだろう。このひとはこうして相手を籠絡して仲間を増やすタイプではないように思っていたけれど、今後は認識を改めなくてはならない。
冷たい言葉を返したというのに、彼は笑顔を崩さない。言葉を撤回する様子も、訂正する様子もない。変わらない笑顔がやけに憎く思えた。
「仏の顔も三度まで……」
忍耐強いと言われる私にもさすがに限度はある。こういうからかいは好きではないし、それをメフィスト様も分かっていると思っていたのに。
「大体、“好きみたい”ってなんですか! “みたい”って!」
そんな言い方で、はいそうですかと受け入れられるわけがない。
これで話はおしまいと言うようにハタキを振る。この家はいくら掃除の時間があったって足りはしないのだ。十三冠ともなれば、それなりに手入れの行き届いた屋敷でなければならない。
「キミとのこんな時間がずっと続けば良いな〜と思ってさ」
はちみつ色の瞳が言う。その表情からはからかいの気配は窺えなかった。本当に、心の底から自然に言葉が出てしまったかのような声色に、ドキリと心臓が鳴る。
「そ、それは……」
思わず視線を外す。同じように感じていたのが自分だけではなかったことに、じわりと胸があたたかくなる。メフィスト様と話していると妙に心地良い。でも、十三冠にもなった彼がどうして私なんかを、という思いが頭の中をぐるぐると回る。
「あなたが言うと洒落にならないんですよ」
「アハハ」
一体どれほどの時を付き合わせるつもりなのか。
必死で言葉を探した末に出た台詞がそれだった。茶化すつもりではなかったのに、そんなふうに聞こえてしまったかもしれないと、後悔した。もっともっと自分の心にぴったりな言葉があったはずなのに。
「でも、俺は本気のつもりだよ」
いつの間にか隣に立っていたメフィスト様が私の手を握る。今度は被っていた三角巾がぽとりと床に落ちた。
「君になら、何度繰り返し言ったっていい」
2025.03.04