この恋心は誰にも知られず殺さなければならない。そう思って隠し通しているはずなのに、彼のにこにこした表情はそんな私の気持ちさえすべて見透かしているかのように思える。

「ダリ先生。頼まれていた書類はこちらで問題ないでしょうか?」
「あ、うん。そっちは大丈夫。ご苦労様」

 ろくに書類を見もせず彼は言う。確認してほしいのは一箇所の数字だけなので、一瞥すれば問題ないのだろうが、それにしたって手元より私の顔を見ている時間の方が長いのはいかがなものか。

「問題ないのであれば自席に戻りますが」
「あ、じゃあ戻るついでに僕の分のコーヒーもお願い。自分の分いれるでしょ?」
「いれますけども……!」

 ついでにいれる分には構わないが、それではコーヒーを届けにまた彼のもとへやってこなければならないではないか! まさかそれを口に出すわけにはいかず、言葉を飲み込む。それに私は彼のお願いに弱かった。

「あとでお持ちします……」
「ありがとー」

 なるべく避けたいのに上手くいかない。やっぱり私の気持ちを知っていて、嫌がらせのためにやっているとしか思えない。なぜこんな悪魔を好きになってしまったのか。
 給湯室でインスタントコーヒーの粉をマグカップに入れる手が止まる。――本当にどうして好きになってしまったのか。
 彼に想い人がいると知ったのは五日前。ロビン先生が口を滑らせた。「アレ? ダリ先生って恋人がいるって聞い――モゴッ!?」ロビン先生の口をすぐさまオリアス先生が塞いで黙らせていたけれども、はっきりばっちり聞こえてしまった。どうやら同僚は皆私の気持ちを知っていて、隠していたらしい。
 あれから五日経つけれども、失恋の傷は一向に癒えそうにない。

「だって、あの態度で勘違いしない方が難しいでしょうが……!」

 何もないのに見つめてきたり、わざわざ用事を頼んできたり。あんなのは恋人にする仕草ではないか!?
 それに、同僚の先生方も、ロビン先生が口を滑らすまで黙っているなんてひどくないか。

「勘違いって何が?」
「ヒッ、ダリ先生……!」

 思わず口から悲鳴が漏れてしまった。

「ひ、秘密です!」

 まさかそれで誤魔化されてくれるとは思っていなかった。きっと、いつものように何だかんだ話しているうちに誘導されて吐かされるのではないかと。

「そっか。じゃあまた今度聞かせてね」

 そう思っていたのにあっさり引くものだから、今度は「へっ?」と間抜けな声が出た。その様子を見て彼が楽しそうに笑う。

「君も随分分かりやすいけど、僕も結構分かりやすくしてるつもりなんだけどなぁ」

 そう言って彼が私の顔を覗き込む。近すぎる距離に顔を逸らしたかったのに、指先ひとつ動かせなかった。

「本当に誰が僕の恋人と噂されてるか、分からない?」

 じわじわと胸の奥に入り込んでくるものがある。あたたかくて、甘くて、心地良いのにドキドキする。
 もしかしたら、私の勘違いじゃなかったのかもしれない。

2024.11.01