バラム先生は誰にでもやさしい。だから、いくら特別対応に思えたとしても、勘違いしてはならない。

「バラム先生! 今少しお時間よろしいですか? 次の授業内容について先生に確認していただきたく!」
「僕に?」
「はい。少し空想生物学に関連する内容があるので、指導内容に間違いがないか」

 不安なんです、と言いながらバラム先生の背中を押して準備室に入る。半分無理矢理押しかけたというのに、彼は「お茶菓子あったかな……」とすでに私をもてなす準備をしようとしている。お茶を淹れていただくだけでも申し訳ないのにお茶菓子まで……!

「す、すぐお暇しますから……!」
「まぁまぁ。このお菓子、君好きじゃなかった?」

 そう言って彼が出してくれたのは私が最近ハマっているグミだった。バラム先生がこういうものを好んで食べているイメージはなかったのだけれど、意外にも私と趣味が似通っているのかもしれない。好きなひとと好きなものが一緒だと嬉しくなる。

「好きです! バラム先生もお好きだったんですね、これ」

 クッキーの隣にあけられた色とりどりのグミの中から一粒だけつまんで手に取る。深い緑色のそれは白い砂糖がまぶされてまるで宝石のようだ。ずっと見ていられるくらい。光にかざすと、さらにキラキラと輝いて見える。彼もつられてじっとこちらを見ている。

「……キラキラして綺麗だ」
「バラム先生もそう思いますか!? 本当食べるのがもったいないくらいですよねぇ」
「いや、僕が綺麗だと言ったのは……」

「って、グミに夢中になってる場合じゃなかった! 先生に確認してほしいことというのは――」
 手に持っていたグミを急いで食べ、バラム先生に向き直る。食いしん坊だというイメージを持たれては困る。確かに食べることは好きだけれど、好きな相手にはもっと良い印象でいたいのだ。
 鞄の中から資料を取り出し、テーブルの上に広げる。ふと視線を上げると、がっくりと肩を落としたバラム先生の姿があった。

「……これでも他意はないんだろうなぁ」
「何か?」
「いや、なんでもない」

 片手で口元を隠し、こっちの話、と彼が言う。そのまま彼は私が広げた資料に視線を落とす。

「うん、内容に問題はないよ。完璧だ」
「本当ですか? 良かった」
「……君、不安だって言っていたけど、内容に間違いはないって自信はあったでしょ」

 その言葉にドキリとする。彼の指摘の通りだ。本当は完璧に調べ上げた自信があった。そもそも、授業で空想生物学の内容に触れると言ってもほんの少しだけで、深い部分までは解説するわけではないからわざわざバラム先生にチェックしてもらうほどのものではないのだ。

「ど、どうして分かったんですか!?」

 思わず立ち上がる。もしかして全部口実だということまでバレてしまっただろうか。バラム先生は嘘を見抜けるが私に家系能力を使う理由はないはずだし、それに自信があっても不安がゼロというわけではないから言ったことが百パーセント嘘というわけでも――

「あはは」

 慌てる私を見てバラム先生が笑い声を上げる。

「君のことなら、分かるよ」

 よしよしとなだめるように、彼が私の肩を叩く。嘘、分かってない。今の何気ない仕草で、どれだけ私がときめいたか知らないくせに。やさしすぎて、いつも思わせぶりな態度で、昨日よりもっと好きになってしまう。
 彼がキラキラ光る宝石のようなお菓子を丁寧に指で摘む。赤色のそれは何味だっただろうか。

2024.12.115