女子会は楽しい。今日の参加者はエリザとクララちゃんと私。女の子が集まって、ほんの少しのお菓子と、おしゃれの話題や恋バナさえあればそこがどこであれ――たとえ教室でも極上の女子会会場になる。

「この間、一緒に買い食いでもしようという話になって……」
「好きな人と一緒に食事の約束をしたらそれはもう脈アリじゃない!?」
「えー、そんなんじゃないよ〜」
「なんだ、貴様好きな人がいたのか」

 闖入者さえ来なければ。

「あ、アズくん……。いつからここに……?」
「今来たところだ」

 さっと血の気が引いていく私とは対照的に、彼は平然と教室内を見回し、クララちゃんに近づいていく。
 どこまで聞かれた? 私の好きな人が誰かはバレていないか? まさか本人に聞かれるなんて、どう誤魔化したら良い?――私の頭の中はそんなことが高速で過ぎっていく。

「アホクララ、イルマ様が探していたぞ」
「マジ? 行ってくる! 二人ともバイバーイ!」

 そう言ってクララちゃんが教室を出ていく。もしかしてアズくんもこのままクララちゃんと一緒に出ていってくれるのではないかと期待した。たまたま聞いてしまったからあんなことを言っただけで、アズくんもそんな私の好きな人に興味なんてなかったのではないか。それもそれで悲しいが。

「それで、どうなんだ?」

 安心しかけたところで、くるりと彼が振り返り、話を戻してくるものだから、もう一度毛穴からドバッと汗が吹き出た。

「あ、私もこのあと用事があるんだったわ〜! また明日〜」
「待って、エリザ! 置いてかないで!」

 伸ばした手は虚しく空を掴み、彼女はひらりとスカートを翻して出て行ってしまった。
 取り残された私たちの間に沈黙が流れる。夕暮れの広い教室をこれほど恨んだこともない。

「あの、私もこれで〜……」
「まだ話は終わっていない」
「ヒエ」

 アズくんの手が肩に触れている。それだけで、ただでさえ混乱している脳みそがますます使い物にならなくなる。

「そんな話私は聞いたことがないが」
「そりゃ話してないからね。今の話は女子同士の秘密の話で〜……」

 本人にそんな話を出来るはずがない! けれどもそんなことは言えない。でもアズくんならそろそろこの辺で引いてくれるだろう。育ちの良い彼が下世話な野次馬根性を持っているはずがないし――

「で、相手は誰なんだ」
「ヒュ」

 息を呑む音が喉から漏れた。

「問題児クラスのやつか?」

 アズくんの赤い瞳が私を覗き込む。クラスまで絞り込まれたらもうバレてしまうのではないか。問題児クラスでわざわざ放課後買い食いの約束をした相手なんて、さすがに自分のことだと気付いてしまうはず。
 ぐっとまた一段彼の顔が近くなる。

「どんなところが好きなんだ?」

 ――これくらいなら答えられるような気がした。

「か、かわいいって言ってくれたから……」

 私の小さな声がふたりきりの教室にぽつりと落ちた。

「は?」

 彼の口がぽかんと丸く開かれる。アズくんのこういう表情は珍しい。

「たったそれだけのことで?」

 ――分かっている。自分だって、あまりにも単純すぎる理由だってことくらいは。実際に、言った本人は覚えてもいないではないか。

「そ、それだけのことでも私にとっては十分だったの!」

 新しい髪飾りを買って学校に付けていって、似合うか不安だったときにさりげなく気付いてそんなふうに褒められてしまったら。
 “憧れのアスモデウス様”から“アズくん”に恋をするには十分すぎる理由だった。どうしようもなく意識して、目で追ってしまって、そうしたらアズくんの良いところを沢山知ってしまって、気が付いたら恋に落ちていた。

「……それくらい、私だって言ったことがあるだろう」
「そ、そうかも?」

 そうかもも何も彼が言った言葉だ。

「では、なぜ私ではダメなんだ」

 多分アズくんは自分が知らなかったことに対して意地になっているのだ。きっとこの言葉に『私にしろ』とかそういうロマンス的な意味は含まれていない。頭では分かっていても勘違いしそうになる。
 ダメじゃない。あなたのことだよ。――そう言ったのなら今度はどんな表情をするだろうか。
 肩に触れる彼の手のひらの熱に、酔いそうになった。

2024.06.30