「肌を出しすぎだ!」
「水着だよ!?」

 至極真っ当な私の反論もすべて聞き流された。


「まったく彼も心配性よねぇ」

 そう言ってケロリちゃんが私の姿をちらりと横目で見ながらトロピカルジュースのストローを咥える。
 私はといえば、せっかく水着を新調したというのにアズくんによってラッシュガードを着させられ、そのジッパーは全閉。さらにはタオルでぐるぐる巻きにされた。
 そんなに言うほど露出は高くない。スタイルに自信がないからお腹も隠れるやつなのに。水着姿を褒めてほしいとは言わないけれど、せめてこの姿をちゃんと見てほしかったなとは思う。このために新調したのだし。

「せっかくのかわいい水着姿を拝まないなんて」

 私以上にケロリちゃんの方が憤っている。
 パラソルの向こうは太陽の日差しが眩しくキラキラと別世界のように見える。ケロリちゃんと日陰でトロピカルジュースを飲むのも悪くないけれど。

「私の何が心配なんだ……」
「そりゃナンパとかでしょ?」
「ハハ……」

 確かにナンパは海の名物だ。けれどもこのビーチにはもっと素敵なお姉さんがうようよしているし、わざわざ私なんかに声を掛ける物好きがいるとは思えない。迷子の心配と言われた方が納得出来るくらいだ。

「それを言うならアズくんの方が――」

 そう言って視線を向けると、今まさに年上のお姉さんが彼に声を掛けようとしているところだった。

「ねえ、君ひとり?――」

 ほら、やっぱりアズくんの方がナンパに遭っているじゃないか!
 イルマくん、クララちゃんとほんの少し離れた隙に声を掛けられている。肩書きのないただのイケメンは普段より声を掛けるハードルが低くなっているのだろう。周りの女性の瞳が爛々と輝いている気がする。
 ラッシュガードとタオルを放り捨てて駆け出す。

「アズくん!」

 ぎゅうとアズくんの腕を抱え込む。彼がぎょっとした表情をしていたけれど気にしない。

「あっち、オペラ先生が呼んでるから! 早く行こ!」
「おい、こら待て、引っ張るな……!」

 反論は聞かない。だってアズくんも私の話を聞いてくれなかったから。
 問答無用でビーチを突き進む。その間も何人かの観光客がアズくんを見て振り返っていた。
 随分と歩いてから、いい加減この辺りまでくれば大丈夫だろうと足を止める。

「こんなところまで連れてきてどういうつもりだ」

 アズくんが不機嫌そうに言う。オペラ先生が呼んでいるというのが私の口から出任せであることに彼も気付いている。

「……やっぱりアズくんのその水着姿は良くないと思うの」

 いつもの制服姿の百倍は隙があるように見える。

「アズくんはかわいいから!」
「かわ……!?」

 かわいいから色っぽいお姉さんに声をかけられてしまうのだ。

「自分がモテるの分かってるよね!? アズくんこそ危機感が足りないよ!」

 私に説教している場合ではないのだ。まずは自分の身を守ってほしい。いくら優秀なアズくんと言えど、百戦錬磨の大人の女性を上手くあしらえるとは限らない。夏のビーチは貴族会とは違うのだ。

「こんなかわいいアズくんをビーチのお姉さんが放っておくとは思えない! せめてイルマくんやクララちゃんのそばを離れないで! かわいいから!」

 かわいいを連呼するたびにアズくんの表情が苦くなっていく。彼の機嫌が悪くなろうとも理解してもらわなければならない。お姉さんに食べられてしまってからでは遅いのだ!

「“かわいい”のは貴様の方だろう」
「えっ」

 そのまま頬を押しつぶされる。むぎゅと変形した口から間抜けな声が出た。「ラッシュガードはどうした」と尋ねられたけれども、この口では答えられない。そもそも投げ捨てたのでどこに落ちてるか把握していないのだけれど。アズくんの眉間のしわがさらに深くなる。

「戻るぞ。私のそばを離れるなよ」

 そのまま私の手を引いて歩き出す。「えっ? えっ?」と状況が飲み込めないまま彼の顔を見上げると、後ろ姿から覗く耳が真っ赤に染まっていた。

2024.04.03