「えっ、コウメイさん好きな人とかいたんですか? えっ、誰? 誰!?」
彼はうっかり口を滑らせたとでも言うように口元を手で覆っている。珍しい表情だとさらに胸を弾ませていると、高明さんはすっと表情を消した。
「あなたには絶対に言いません」
「なぜ!?」
高明さんとはそれなりに仲良くしていると思っていたのに。それなのに絶対言わないとまで言われてしまったことに少しショックを受ける。
「って、ちょっとプライベートに突っ込みすぎちゃいましたね。すみません」
恋バナに女子高生のようにはしゃいで、これは大人の対応ではなかったと反省する。本人が言いたくないことを聞き出すのは良くない。興味本位で聞き出されるのも気分が良くなかっただろう。話題を変えようと「そういえば」と言いかけたところで彼がこちらへ手のひらを向ける。
「待ってください」
私が彼の手のひらから顔に視線を移すと、高明さんは一瞬きゅっと口を引き結んだ。彼にしては珍しい表情だなと思った。
「……僕の想い人が誰か気にならないんですか?」
「そりゃあ気になりますけど」
無理矢理聞き出すのは違うかなと思って。そう思って引いたのだけれど、実は彼も話したかったのだろうか。あまりこういう話をするタイプには見えないけれど、周りにもそう思われて話したいのに話せなかったとか?
「教えてくれるんですか?」
彼がこの話を続けるつもりならば遠慮はしない。一度は静まったテンションが再び上がってくる。
「あ、待ってください。私当てましょうか!? でも私が知らない人の可能性もありますよね……。あ、分かりました! 交通課の新人の子!」
ベタだけどありえないことはない。
「全然違います」
「全然ちがうんですか……」
「はい、全然違います」
それなりに自信があったのに外れてしまった。確かに新人では高明さんが好きになるには若すぎたかもしれない。
「じゃあ、もうちょっと落ち着きのある女性……」
「……落ち着きはありませんね」
「えっそうなんですか?」
どんな人なのかもう全然想像が付かない。高明さんと似たタイプの落ち着きのある冷静な女性かと思ったのにそうではないらしい。
「えー、私が知ってる人ですか?」
「よくご存知かと」
ここまでヒントを出してもらっても全く思い当たる人物がいない。私と親しい人物かつ高明さんと仲良い人物……あ、密かに想いを寄せているパターンもあるのか。腕を組んで考えていると、ふと彼が私の顔を覗き込む。
「本当に気が付かないんですか?」
彼の指先が私の手に触れる。瞳に映る熱が、恋の色をしていた。
2025.05.29