今日こそ私は千早くんに告白する!
そう意気込んでいたのに、朝通学路での待ち伏せは、昨晩緊張から眠れず結局寝坊して失敗。朝練後も失敗。昼休みも野球部の人から呼び出しがあって失敗。失敗、失敗、失敗失敗……。そんなこんなであっという間に放課後になってしまった。今日はもう部活終わりしかチャンスはない。
私は誰もいなくなった教室で、グラウンドをちらちら横目で見ながら野球部の練習が終わるのを待っていた。
千早くんとは同じクラスでそれなりに仲良い方だとは思う。このまま友達のままでも十分楽しいからいいじゃないかと思ったときもあったけれど、野球部が注目され始め、彼らの周りが騒がしくなってから焦るようになってしまった。私が何もしないでいる間に、千早くんが誰かと付き合い始めてしまったらどうしよう、と。だから、絶対に今日告白すると決めてきたのだ。
遅々として進まない時計をぼんやり眺めながら告白のシミュレーションをするのにも疲れてきた。今朝から心臓はバクバク言いっぱなしだ。
野球部は今はどんな練習をしてるのかなと思いながら、窓の外へ視線を向けると――
「えっ!? 野球部いない!?」
まだ完全下校時刻までは時間がある。まさか早く終わるなんて。いつ練習が終わったのだろう。ぼんやりしすぎてあまりグラウンドに注意を向けていなかった。アホすぎる。……もしかしてこれはもう告白するなという神様のおぼしめしなのかもしれない。
肩を落として荷物をまとめる。部室にいけばまだ間に合うだろうか。今朝からのタイミングの悪さを思うと、もう帰ってしまっているような気がする。深い溜め息が出る。
「はぁ〜あ……」
「ちょっと通してくれます?」
肩を落として歩いていると、ドアのところで前から声が聞こえてきた。それも、私がずっと考えていた人の。
「ちは……!?」
「なんですか?」
思わず大きな声を出すと、千早くんが目を丸くさせる。
なんではこっちの台詞だ。何で千早くんが私の目の前に? 帰ったのではなかったのか。
「今日は一段と様子がおかしいんですね」
そう言って彼が笑う。からかう言葉だと分かっていたけれど、今それに反論する余裕はない。心臓がバクバクと大きな音を立てている。私は今日、彼に告白すると決めた。散々シミュレーションしてきた呼び出す過程はなくなったけれど、これは今告白するチャンスなのでは!?
千早くんはどうやら忘れ物を取りに来たようで、机の中からノートを取り出して鞄の中にしまっていた。今を逃せば、彼はまた野球部の皆のところに戻って彼らと一緒に下校してしまうのではないか。今しかない、今しか――
ぎゅうと手のひらを強く握って覚悟を決めようとしていると、彼が鞄の中から何かを取り出した。
「そういえば昨日コンビニで見つけたんであげます」
「え!?」
そう言って手渡されたのは期間限定味のチョコ。友達がおいしかったと言っていたから食べたくてコンビニを何軒か回ったのに売り切れていた幻のチョコだった。
「探してるのに見つからないって言っていたでしょう? 俺の家の近くのコンビニにあったんで」
「あ、ありがとう……!」
昼休みに雑談の中で話しただけなのに、コンビニに行ったとき思い出してくれたんだと嬉しくなる。千早くんはやさしい。一緒にいると楽しくて、会話のテンポが心地良くて。彼のやさしさに触れるたび、自分の中の気持ちが大きくなっていく。
「千早くんのことが好き」
昨晩寝れずに考えた言葉がもっとあったはずなのに。前置きも全部置き忘れて単純な言葉しか出てこなかった。小さく零れ落ちた言葉はそれでも彼に届いたようで、千早くんが顔を上げて、丸くなった目でこちらを見る。
「ごめん、こんなこと急に言って困らせて! 今日伝えようって決めてて、でも何かふたりきりになるタイミングなくて、今がチャンスだーって思って」
アハハという私の笑い声が教室内に虚しく響く。こんな言い訳みたいなことじゃなくて、もっと伝えたいことはあったはずなのに、口から出るのは道化みたいな言葉ばかりだった。
「明日からも変わらず友達でいてくれたら嬉しいな〜なんて」
「嫌ですよ」
グサリと、彼の言葉が刺さる。――そりゃそうだ。告白を聞いといて今のままでいられるわけがない。私の気持ちを知りながら、まったくなかったことにしてくれるような人ではないと分かっていたはずなのに。きっと距離を置かれる、と。
「ほーんと、鈍感なんですね」
その言葉に顔を上げると、彼と目が合う。からかう言葉なのに、いつもとはどこか響きが違う。千早くんが肩に鞄を掛け直し、一瞬窓の外へ視線を向ける。
「これでも結構分かりやすくしていたつもりだったんですが」
そう言って千早くんがくいと眼鏡を指で押し上げる。苦笑の表情が一瞬あとにゆるめられて、ふっと笑う。
「正直、このタイミングで告白されるのは予想外でしたが」
分かりやすいって何が。このタイミングが予想外ってどういう意味。聞き返したいことは沢山あるのに、心臓がドキドキとうるさく脈打って口が動かない。喉がきゅっと締まって、呼吸まで忘れてしまいそうだった。
「俺も好きですよ」
夢じゃないかと思ってほっぺたをつねると、千早くんが声を上げて笑った。
2024.08.28