「マサってまるでのお母さんみたいだね」と一十木などは言う。

確かには目を離せばあっちへふらふらこっちへふらふらしてすぐ迷子になるし、忘れ物をしては一日に何度も寮との間を往復もするし、机に飲み物を置いておけば高確率でそれを倒す。その度に手を引いてやったり、待っててやったり、ハンカチで拭いてやるのは真斗の役目だった。パートナーという立場上の世話を焼く機会は多いが、かと言って専属の世話係になった覚えはない。

「マサとって良いパートナーだよね」
「どこがだ。あいつは課題は締切直前にならないとやらないし、この間などは置いておいた俺のメロンパンの上に誤って座った」

この間も階段から落ちそうになったばかりである。真斗が腕を引いてやらなければそのまま一番下まで落ちていただろう。それなのに落ちそうになった本人は真斗に礼を言うことも忘れて躓いた拍子に借りた本を落としてしまったことばかりを気にしているのである。礼はともかく、一歩間違えば大怪我をするところだったというのに反省の色が見えない。まったく危機感がないのである。それを一十木に話すと彼は腹を抱えておかしそうに笑った。

ってどこか抜けたとこがあるよな」
「どこかではない、穴だらけだ」
「マサは厳しいなー」
「本当のことだ」

寝食を忘れて倒れることもしょっちゅうある。その度に真斗が何度も厳重に注意するのだが直らない。そのくせおいしいものには目がない。倒れたあとはすぐにいっぱい食べたがる。胃に悪いと言って聞かせても不満を言うので仕方なく真斗が消化にいいお粥やうどんなどをのために作ってやる。真斗が作ったものならおとなしく食べるのだから手間の掛かるパートナーである。

「でもマサはのことちゃんと認めてるんだろ?」

一十木のその問いに真斗はうっと言葉を詰まらせる。

寝食を忘れるほど音楽に夢中になれることは羨ましいと思う。作曲のセンスも悪くない。しかしパートナー選びがもしもくじでなかったならを選びはしなかっただろうなとも思う。くじで決まってしまったから仕方なくパートナーを組んでいるだけだ。

「じゃあパートナーやめる?マサなら組みたがる相手はいっぱいいるだろうし」
「そんなことになったらあいつはどうなる」

の音楽センスは一目置くものがある。彼女の作曲した曲を歌いたいと思う者は少なからずいるだろう。しかしそれだけではのパートナーは務まらない。抜けてるし、すぐ人に騙されるし、締め切りだって忘れることがあるからスケジュールもこちらが時々チェックしてやらなければならない。もしも自分がいなければはまともな生活が出来ないだろうと思うことすらある。

「こんなやつと組めるのは俺くらいだろう」

そう真斗が言うと一十木は笑った。

「やっぱりマサはなんだかんだ言ってのことを気に入ってるんだ」

それに対して真斗が「そんなことはない」と否定しかけたところで視界の端に楽譜を抱えて歩くの姿が映った。腕いっぱいの楽譜を持ってふらふらしている。真斗は「ああもう」と小さく漏らすと大股での方へ向かっていく。呆れた声を出しながらもその横顔は普段見せないやさしいものだった。そんな真斗を見て一十木は「素直じゃないなぁ」と再び笑みを零すのだった。

2011.09.30