私は朝からセシルに向かって手を合わせて拝んでいた。拝んでいたと言ってもアグナパレス的なものとは全く関係はない。

「セシル、本当にごめん!この通り!」
、ワタシはあなたを許さない」

セシルは腕を組んでぷいっとそっぽを向いている。心なしか、頬も膨らんでいるような気もする。そんな彼の前には空になったプリンの容器が置かれていた。ありがちなことだが、彼は私が冷蔵庫に入れておいたプリンを勝手に食べてしまったことに対して怒っているのだった。もちろん私の方に非があるのは分かっている。けれどもきちんとした朝ご飯を食べる食欲がなかったから、セシルのものだと分かっていたけれどまた買っておけばいいかなぐらいの軽い気持ちで食べてしまったのだ。まさか彼がこんなことでこれほどまでに怒るとは思わなかった。こんなことになるのなら食べなければよかったと私は後悔した。

「絶対に許しません」
「だからごめんって謝ってるでしょ。今度代わりのもの買ってくるから。ね?」
「あれはワタシにとって特別なもの。代わりなんてない」

そんな大げさな。あれはスーパーで買ってきたものじゃないか。有名洋菓子店の限定物ならいざ知らず、近所のスーパーに百円で売っているようなものだ。私も一緒に買い物に行ったときにセシルがかごに入れたものだから間違いない。多分コンビニにだって売っている。何も特別なところなんてありはしないのにセシルは頑なにあれは特別なものだったと言い張るのだ。確かに楽しみにとっておいたプリンを食べられた悲しみは分かるけれども、そこまで怒らなくったっていいと思う。セシルはいつも変なところで頑固だ。

「分かった!じゃあ今度のお休みにプリン作ってあげる!」
「作る…?」
「そう、私の手作り!牛乳たっぷりのやつ!」

セシルの綺麗な緑色の目がちらちらと私を見る。きっと悩んでいるんだと思う。牛乳たっぷりという言葉に相当ぐらぐらきているはずだ。さっきまであれだけ怒っていたのだから簡単に折れるのはプライドが許さないといったところだろうか。もう一押しさえすれば落ちるはずだ。

「あれと同じプリンも買ってきてくれますか?」
「買っとく!明日お買い物に行ったときにそれも必ず買っとくから!」

プリンを作る材料と一緒に買っておけばいいのだ。それくらいお安い御用である。プリンを作るの、オーブンで焼くのは結構大変だから市販のプリンの素を牛乳で混ぜるだけではダメだろうか。ダメだろうなぁ。やっぱり誠意を見せるのならきちんと牛乳と卵で作らないとまたセシルが怒るかもしれない。牛乳たっぷり入れると約束しちゃったし。もうセシルを怒らせるのは懲り懲りだ。やっぱり次の休日はセシルのためにプリンを作る日にしよう。まるで私の考えを見透かそうとしているかのように、ちらちらとこちらの様子を窺っていた。

「じゃあ、許します」
「ありがとう!セシルだーいすきっ!」
「そんな言葉ではごまかされません。はいつも調子がいい」

セシルに抱きついたのだがあっさり見破られてしまった。そんなことを言いながらもセシルだって片手はしっかり私の背中に回して、もう片方の手ではゆっくりと私の髪を撫でているのだから彼もまんざらではないのかもしれない。

2011.10.10