きらきらしたものに囲まれていると幸せな気分になる。
かわいいお洋服を着て、ケーキや甘いお菓子を食べて、学校では友達はコイバナに花を咲かせる。そうやってかわいいもの、きれいなものに囲まれているとなんだか自分もかわいくきれいな存在になれた気がする。
きらきらしたものは好き。
茶色いチョコレートクリームでコーティングされたスポンジにフォークを立てるとやわらかな感触で簡単に差さった。ふわふわとしたケーキは口の中に入れるとまるで溶けるように上品な甘さが口内いっぱいに広がる。私はその甘さに満足して思わず口元を手で隠した。口角は上がりっ放しだ。
「どうだ、一流パティシエに作らせたチョコレートケーキは」
そういう景吾の声には自信が満ちている。言葉で聞く前に私の答えが分かっているのだろう。私の目の前にはきれいな細工で飾られたケーキたちが並んでいる。その中でもチョコレートケーキが多いのは、この間学校のカフェテリアで食べたチョコレートケーキがおいしかったと景吾に話したからだと思う。
「とてもおいしい」
そう答えれば景吾は「そうかよ」と満足そうに笑う。言葉は素っ気ないけれども声色は深く優しい。私はそんな景吾の笑い方が好きだ。
突然跡部邸に呼び出されたときは何事かと思ったけれど、使用人に通された部屋のテーブルに並べられたケーキたちに興奮して他のことはすっかりどうでもよくなってしまった。
「食べきれない分は持って帰ってもいい?」
「ああ、そのために多めに作らせた」
多めと言っても明らかにテーブルの上に並んでいるケーキはひとりで食べ切れる量ではなかった。毎日食べても賞味期限内に消費出来るか怪しいし、家族皆で食べても食べれるかどうか。お土産用だとしても限度があるんじゃないかと思う。
「景吾は食べないの?」
「俺はいい。お前が食べろ」
全部お前のだ、と景吾は言う。
景吾は私に対して甘い。私のために淹れられたこの紅茶も以前私が一度飲んでみたいと言ったものだ。ぽろりと零した言葉だったのに景吾はその言葉を丁寧に拾ってくれる。私がおいしいと言ったものは次に訪ねたときにも必ず同じものが用意されているし、そういったものが特別ないときは景吾が取り寄せたお勧めのものを出される。それらはどれもおいしくて、私の好みにあっている。茶色く半透明な液体を揺らすといい香りが鼻をくすぐる。銘柄は私なんかには区別がつかなかったりするのだけれど私はこうして景吾とアフタヌーンティーを楽しむのが好きだった。
「」
景吾が名前を呼ぶので私はカップをテーブルの上に置いた。カチャリという音とともに顔をあげるといつの間にかテーブルから身を乗り出していた景吾と至近距離で目が合った。
景吾の部屋にはきれいなものばかりだ。というよりも、きれいなものしかない。景吾自身も。
景吾の目はきらきらしている。瞳の奥からきらきらとお星様みたいに輝いていて、ずっと見ていると眩しくなってしまうくらいだ。きらきらしたものに吸い込まれてしまいそうになる。
生徒会長でテニス部の部長で本当に同じ人間なのかと疑うほどに景吾は何でも出来る。普通の人間である私から見たら彼はたまに眩しすぎる。友達なんかは景吾を見るとドキドキするなんて言うのだけれど私は景吾がただただ眩しい。
目が眩んで、思わず視線を下にずらすと景吾は「俺様を見ろ」と言う。
「景吾見てると眩しくなっちゃうから」
そう言うと景吾の手のひらが優しく私の目を覆った。ちかちかと瞼の裏側に光が透ける。目を閉じても彼の眩しさは変わらない。そのきらきらを繋げたら何か意味のある形が出来るのかしら。
企画提出// 2013.02.11