チーム柊の皆でチョコフォンデュパーティーをすることになった。

「付き合わせちゃって悪いね」

隣を歩く辰己くんがちらりとこちらへ視線を向けて言う。言葉と一緒に吐き出された息が白く染まっている。少しずつ日が長くなって、少しずつ暖かくなっているとは言っても、まだまだ夜は冷える。灯り始めた電灯の下を通る度に彼の明るい色の髪が光を受け、歩調に合わせて揺れていた。

「ううん」

付き合わせただなんてとんでもない。私が返事をするとその言葉も白い息になって出ていく。

「具材をあれこれ提案したのは私だし。買い出しくらい私一人でも大丈夫だったのに」
「もっと色んなものがあった方が楽しいんじゃないって言い出したのは俺だからね」

パーティーをするにあたって、具材はバゲットやフルーツなど十分に用意されていた。けれど、辰己くんの一言に私がドライフルーツとかカシューナッツ、それにビスケットなど市販のお菓子につけて食べても美味しいかもといくつか例を挙げると、それらも試してみようと盛り上がって追加の買い出しに行くことになったのだ。

「それに俺は残って準備するより買い出し係の方が皆は安心するだろうし」

俺が台所に入ろうとすると皆止めるんだ、と辰己くんが自分で言って少しだけ笑ってみせる。出るときに辰己くんが『俺も行くよ』と言う言葉にやたら皆が賛成すると思ったらそういう理由だったのか、と今さらながらに納得する。

飲み物など重いものを買うわけでもないから、買い出しに行くくらい一人で十分だと思っていたのだけれど、辰己くんについてきてもらって正解だったのかもしれない。辰己くんからは上機嫌そうにふふと笑う声も漏れている。

「スーパーで棚を眺めながらチョコに合うものを考えるのは楽しそうだな」

いっそ夕飯を兼ねた豪華なパーティーにしようということになったこともあり、良さそうなものがあれば何でも買ってくるように言いつけられている。彼の言う通りふたりであれこれ相談しながらカゴに入れていくことを考えるとわくわくしてくる。

「ねえ、は何が一番好き?」

辰己くんが顔をこちらに向けて尋ねる。

「私は――」

答えようとした瞬間、ぴゅうと冷たい風が通った。思わず足を止めて首をすくめる。強い風に隣の辰己くんも「うわ」と小さく声を上げているのが聞こえた。

「風吹くと寒いねぇ」

言いながら反射的に閉じていた瞼を開けると、先ほどよりも近い位置に辰己くんがいた。は、と短く吐いた私の息が白く色を付けて広がっては一瞬のうちに消える。――彼の手が私の肩に触れていた。

「たつみくん?」

名前を呼ぶと彼はハッと気が付いたかのように視線を上げた。目を丸くさせたままの表情で固まって、じっとこちらを見ている。こんなにひどく驚く辰己くんなんて初めて見た。私の肩に手を置いたということは何か言いたいことだとか、“何か”が辰己くんの方にあったはずなのに。パッと咄嗟に離れた彼の手は未だ宙に浮いたままだった。

「ごみでも付いてた?」
「いいや」

冗談交じりに尋ねれば、今度はちゃんと返事が返ってくる。視線を伏せて、薄く笑みを作った辰己くんはいつもと変わらないように見えた。

「そういえば、マフラーはどうしたの?」
「急いでたら忘れてきちゃって……」

来るときは巻いていたのだけれど、辰己くんが一緒に来るということにいっぱいいっぱいになってしまって部屋に忘れてきてしまった。

「寒そうだ」

するりと、辰己くんが自分のマフラーを解いてそれを私の首元に掛ける。反射的に一歩後退って逃げようとしたのだけれど、それも腕を掴まれて引き戻されてしまう。

「辰己くんの方が首寒そうだよ! 私は今日首元詰まってる服着てるから大丈夫」
「俺も沢山着込んでるから平気だよ」

そう言っている間にも、辰己くんは器用にマフラーを結んで隙間がないように整えていく。確かに今日の辰己くんはあたたかそうなセーターを着ていたけれども首元は開いているし、マフラーがなくなってしまってはすぐに冷えてしまうのでは――そう抗議してマフラーを外そうと手を上に持ってきても、またすぐに彼に掴まれて体の横に戻されてしまった。

「むしろ今は少しあついくらい」

そう言って辰己くんが私の瞳を覗き込む。両手を横で掴まれて動けない私は、直立不動のまま彼を見つめ返すしかなかった。私を映した彼の目が不意に細められる。

「それはきみが巻いていて」

「ね?」と首を軽く傾けてお願いされれば、私に断る術はなかった。彼のじっと見つめる視線から逃げるように顔を埋めると微かに彼の匂いがした。

2018.03.08