も一緒に花火シマショー!」

夏も終わりかけのある日、楪先輩のその一言で、漣先輩の自宅にて開催される花火大会に私もご一緒することになった。他にも彼の友人が沢山集まるのかと思っていたのだけれど、意外にも漣先輩以外のメンツは私と楪先輩だけで、あとは漣先輩の甥っ子や姪っ子が気ままにやってくるだけだった。この花火たちは子どもたちのものなのではと思ったのだけれど、彼らは昨晩これの倍以上の花火を使って遊んだばかりで、今日はテレビに夢中らしい。

「きれいデース」

小さく楪先輩が呟く。ぱちぱちと私たちそれぞれの手の中で線香花火が瞬いている。

「ああ」

小さな光に照らされる漣先輩の横顔に見惚れている間に、私の線香花火の先がぽとりと地面に落ちた。



漣先輩の隣に並びながら帰り道を歩く。

日の暮れる時間に集まったはずなのに、あれこれ遊んでいるうちにもう夜はすっかり深くなってしまっていた。

「今日は本当に楽しかったです」

どういう会話の流れだったか忘れてしまったけれど、私がスイカ割りをしたことがないと話せば、何故かそのあと急遽スイカ割り大会が開催された。私は無事スイカを割ることが出来たのだけれども、そのあと漣先輩が挑戦するものがなくなってしまって、代わりに楪先輩がリンゴを置いた。すると、その小さなリンゴを漣先輩は見事割ってしまうものだからおかしいったらなかった。

「良かったらまた来なさい」

漣先輩の隣を歩いて駅まで送られていると、ふわふわとまだ夢の中にいるような心地がする。

漣先輩のご家族や楪先輩と過ごす時間はとてもにぎやかで、笑いすぎてお腹が痛いくらいだった。――その分、ふたりだけの空気がシンと耳に響くようだった。

「楽しすぎて、帰るのが少しさびしいくらいです」

素直に今の気持ちを口に出しても許されるような気がしてしまった。漣先輩も今ならそれを聞いてくれるのではないか、と。

楽しかった分帰るのがさびしいなんて、子どもじみた感傷だとは分かっている。ふたつ並んだ影が街灯が近付くたびに濃くなって、けれどもそれを通り過ぎると薄くなって夜に紛れてしまう。

ずっと駅に着かなければ良いのに、と思う。

吹き抜ける風も少しずつ季節の移り変わりを感じさせるものに変わってきている。夏ももうすぐ終わりなのだ。花火をしたり、スイカ割りをしたり、今日一日で夏を満喫してしまったせいで、それがひどく名残惜しい。

「なんて」

そう言葉を付け足して冗談めかす。

ぷらぷらと両手を振って歩けば少しは気が紛れるかと思ったのだけれど、逆効果だった。がらんどうの手のひらすらさびしく感じる。

私の笑い声が消えると、またシンとした夜の静寂が戻ってくる。やはり漣先輩に呆れられてしまったのかもと隣を歩く横顔を窺っていると、不意に彼が口を開けた。

「……毎年秋には落ち葉を集めて焼き芋大会をする」
「焼き芋!? 好きです」
「だと思った。芋の他にも、リンゴをアルミホイルに包んで焼くとうまい」

落ち葉の山からアルミホイルに包まれた焼きリンゴを取り出すところを想像するだけでわくわくした。落ち葉で焼きリンゴだなんて、とても特別で、贅沢な感じがする。

「冬は雪だるまだな。大小様々な雪だるまを作って、誰が一番上手く作れたか競う。正月になれば羽子板大会もするな」

漣先輩が指を折りながら順番に挙げていく。漣先輩のお家の庭は大きいから雪だるまも作りがいがありそうだし、スポーツマンの先輩が思いっきり羽子板を付いても余裕がありそうだ。白くきらきらと庭に積もった雪が、駆けるたびに舞い上がるのを想像する。

「皆で凧揚げをする年もある。冬はやることが多いな。春は――」
「漣先輩、漣先輩」
「ん? どうした?」
「先の話すぎます」

想像が追いつかなくなって、私が小さく笑いを溢しながら指摘すれば、漣先輩が「す、すまない……」と照れたように謝る。なんだかそれがかわいらしく見えて、私はまたすこしだけ笑ってしまった。

「秋も、冬も、その先もお邪魔してしまっていいんですか?」
「あなたさえ良ければ、いくらでも」

また街灯の下に近付いて、ふたり分の影が輪郭を濃くする。けれども、その下を通りすぎたってふたりの影は並んだままであることを、私はもう知っている。

「ちなみに、春は何をするんですか」
「花見だな。これはどこか桜の綺麗なところへ出掛けてもいい」
「漣家のお弁当はすごそうです」

漣先輩のやさしさのおかげで、今はもうさびしくないのだ。

2018.11.12