すっかり日の暮れた道を歩いていると、部活動の帰りなのだろうか。運動部らしき男子高校生の集団が仲良さげに話しながら前から歩いてくる。その手の中にはコンビニで買ったと思わしき中華まんがそれぞれ握られていた。

「いいなぁ、肉まん……」

すれ違ったとき、中華まんのいい匂いが漂ってきたような気がしたし、皆それをおいしそうに頬張っていたのだから羨ましく思ってしまっても仕方のないことだと思う。

「この時間に食べたら夕飯が入らなくなりますよ」

私の隣で独り言を聞きとがめた申渡くんが言う。寒くなったこの時期の誘惑は多い。

「そもそも買い食いは」と彼が続ける。

この時間の買い食いが良くないことは分かっている。今は帰り道で、もうすぐ家に着くのだし、夕飯をおいしく食べるためにもここは我慢すべきだというのも、ちゃんと理解している。

でも、一度気付いてしまった誘惑を振り切るのはなかなか難しいことなのだ。

こうなったらコンビニの前をさっさと通り過ぎてしまおうと歩くスピードを少しだけ早くすると、「はぁ」と隣を歩く彼から溜め息を吐く音が聞こえた。

「少し待っていてください」

そう言って申渡くんが足を止め、こちらに向き直って言う。そのときに私のマフラーが歪んでいるのが気になったのか、手を伸ばしてそれを直してくれた。

急な彼の行動を不思議に思いながら待っていると、すぐに袋をひとつ下げて彼が店から出てくる。

何か買ったの?と尋ねる前に彼が袋から買ったものを取り出す。それが中華まんの包みだったものだから、私はびっくりしてしまった。

彼は紙の包みを開けると、中の肉まんをきれいにふたつに分けた。

「どうぞ」

そう言って申渡くんが半分に割った肉まんの、紙に包まれたままの方を差し出す。

何度か瞬きをしてみても、差し出されたそれは消えたりしなかった。

「今日は半分で我慢してください」

受け取ると、じわりと指先が温まる。冬の空気に、肉まんから白い湯気がふわりと立ち上っていた。

「ありがとう」

驚いて簡単なお礼の言葉しか出てこなかった。私の言葉に彼はそれまでの呆れたような表情をゆるめて「ふふ」と笑い声を溢す。少しだけいたずらっぽい表情で。

私が呆けている間に、彼が「いただきます」と肉まんを頬張る。

「久しぶりに食べましたが、やはりおいしいですね」

口の端についた欠片を親指で拭いながら彼が言う。

「中の筍の食感がしっかりしていて、具沢山で食べ応えがあります」

まさか、申渡くんが肉まんを買ってきて半分こしてくれるだなんて、思わなかった。夕飯前に買い食いだなんてすべきではないと言っていた申渡くんが私のわがままを聞いてくれた。その事実がゆっくりと私の中に染み込んでいく。

それに、半分こだなんて何だか恋人同士っぽくてドキドキする。

「どうしました? 食べないのですか?」と促されて、ようやくぱくりと手の中のそれを一口食べる。皮の甘さのあとに、じわりとあんの旨味が口の中に広がる。

「おいしい……」
「ふふ、それは良かったです」

あんなに食べたかったはずなのに、今度は何だか食べるのがもったいないような気がしてしまう。けれどもそれと同時に、半分しか手元にないはずなのに何故か満たされた気分になる。

じっとこちらを見る申渡くんには、私がそう思っていることすらも気付かれてしまっていそうで恥ずかしかった。

誤魔化すように、肉まんをもう一口頬張る。それはひどくやさしい味がした。

2018.12.02