楽しかったハロウィンパーティも「そろそろ解散にしましょう」の一言でお開きになった。皆で仮装をして辰己くんが集めたお菓子たちをわいわい食べていたのだけれど、楽しい時間はいつもすぐに終わってしまう。
ゴミを大きな袋にまとめていると、視界の端に何かが落ちる様子が映った。
「申渡くん、落としたよ」
それは余ったお菓子を抱える申渡くんの腕から落ちたもののようだった。小さな球状のものがカーペットの上に静かに落ちてころころと転がった。
「ああ、すみません」
私の声に彼が振り返ったけれども、仮装で片目に包帯を巻いているため視界が狭くなっているのだろう。床のどこに何を落としたのか見つけられないようだった。
「拾うよ」
「ありがとうございます」
このままでは視界が悪いことに気が付いた申渡くんが言いながら包帯を取りかけていたけれども、それを制して彼の代わりに床へ屈む。
拾って手に取ってみると、彼が落としたのはまあるい目玉だった。もちろん本物のではなくハロウィンの仮装の小道具だ。しかし、きちんと持ち主の目の色に似ていた。
「申渡くんの目の色って綺麗だね」
手元のそれを見つめる。どこで用意したのか知らないけれどハロウィンの仮装らしいおどろおどろしさはない。透き通った色が部屋の光を反射させてきらきらしている。
それが手のひらでころりと転がる。
「私の瞳はこちらですよ」
顔を上げると彼の瞳が随分と近くにあった。結局包帯を取ってしまったのか両の目がこちらを見ている。
ぱちりと一度、彼が瞬きするのがスローモーションのように見えた。先ほどまで手のひらに乗せて見ていた作り物の瞳と同じ色のそれはいつも見ていたはずなのに、今初めて見るもののような感覚がした。
視界がチカチカして、まるで申渡くんの両の瞳も宝石のように沢山の光を反射させているように見えた。
「そちらは偽物です」
そう申渡くんがふふと笑いながら離れる。彼は動けないでいる私の手のひらから目玉を取って、代わりに持っていたあめ玉を乗せた。
「知ってるよ……」
急に彼の目を見れなくなってしまった。普通の距離で普通に話すのも今までどうやっていたか分からなくなってしまって、きょろきょろと視線を彷徨わせる。すると普段はきちんと整えられている彼の髪がぴょこりと飛び出ているのに気が付いた。
「申渡くん、髪の毛乱れてる。包帯巻いてたところ」
「おや」
言いながら伸ばしかけていた手を止める。それに気が付いたのかは分からない。彼がまた小さく笑って、自分で左側の髪をちょいちょいと手で直す。
「どうでしょう」と尋ねる彼の髪はいつも見慣れたものに戻ったのだけれど、私はそれに上手く答えることが出来なかった。そうして口の中で言葉を探しているうちに「申渡」と向こうから彼を呼ぶ声がした。
「申渡、早くそれをこっちに持ってきてくれ」
「はい、ただ今」
そう返事をして申渡くんは呼ばれた方へ行ってしまった。それを眺めながら手のひらに残されたあめ玉をぎゅうと握りしめる。鮮やかな色の包み紙が小さく音を鳴らした。
2017.11.13