「あげる」

そう言って彼から手渡されたのは綺麗な小箱だった。

「も、もらえないよ、こんなもの!」
「どうして」
「だって……」

中を開けると箱と同じように綺麗でかわいらしいネックレスが入っていた。受け取れない理由なんて簡単だ。でも、『私はりっちゃんの彼女じゃないから』というそのあとに続く言葉は言うことが出来なかった。もしくは『りっちゃんは私のこと好きじゃないでしょう?』でも良い。それは紛れもない事実で、もう何年も同じ現実だったのだけれど。

「急にどうしたの?」
「いつもは色々くれるから」
「色々って……コンビニで買ったチョコとか、そうじゃなかったらオモシロ生活便利グッズみたいなのばっかじゃん。プレゼントなんて誕生日とかクリスマス会ぐらいでしか渡したことないよ」

それも皆と一緒にだ。個人的に彼にだけにプレゼントを渡したことなんて一度もない。彼に貢いでいるなんてことは全くないし、沢山お世話しているなんてこともない。どちらかといえば最近では飲み会に混ぜてもらったりしてお世話になっているのは私の方なのだ。そもそも彼は物に困ったりしていない。もし私があげた些細なものたちのお返しだとしてもこんな素敵なネックレスをもらうに値するはずがないのだ。

「どうして受け取ってくれないんだ。せっかく僕が用意したというのに」

理解出来ないと言うように彼の言葉には不機嫌さが滲み出ていた。私としてはどうして受け取れない理由を察してくれないのだと言いたいのだけれど。

「……りっちゃんは『特別』だから」
「『特別』ならなおさら受け取りたいと思うものだろう? 自分の『特別』を何らかの形で返してもらいたいとは思わないのか?」

不思議と彼相手にはそんな風に思わないのだ。まさか早乙女律が私のことを好きになるだなんて考えたことがないし、何かを返してもらいたくて彼を『特別』に思っているわけではない。

「本当にもらえないから」
「じゃあ捨ててもいい」
「そんなの出来ない」

小箱の中のそれは私と彼の間を行き来する。りっちゃんが選んだくれたのだろうそれは彼らしく上品で美しくて、それでいて贈り物らしく可憐で、とてもじゃないけれどそれが私の胸元に下がっているところなんて想像出来なかった。

本気で困っているのだということを分かってほしくて彼の目をじっと見つめると、りっちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をする。彼はそんな表情すら美しいのだけれど。

「喜ぶかと思った」

もうすっかり不機嫌さ隠すつもりのない声だった。私だって喜べたら良かったのだけれど、こんなまるで彼女に渡すような贈り物はもらうわけにはいかない。だって、りっちゃんはそんなつもりないのに。

「本当に何もいらないから」

強いて言うならばこうして友達として一緒にいられるだけで十分で、『りっちゃん』と呼べるだけで十分で、彼が『』と私の名前を呼んでくれるだけで十分なのだ。何かを返してほしかったのなら、私は最初からりっちゃんを選んだりしていない。

中途半端はいらない。全く同じものを返してもらえないのならつらいだけだってこと、どうして分かってくれないの。

2017.07.15