向こうから高身長のイケメンが歩いてくると思ったら自分の彼氏だった。

「誠士郎! こんなところで何してんの?!」
「あっ、ちゃん!」

「グーゼンだね!」と誠士郎が言うので私も「偶然、偶然!」と彼の言葉を繰り返す。誠士郎は背も高いし声もよく通る上に、たまに歌っているから遠くからでも分かりやすくて助かる。

「相変わらず仲良いな」
「あれ、虎石。いたの」
「相変わらずオレの扱いひどくねぇ?」

そう言いながらも虎石はさして気にしているようには見えない。彼は出会ったときからそうだった。

「こんなところで何してんの? どこ行くの?」

虎石の一歩後ろにはもうひとり彼らの友人もいるようだった。休日だから当然かもしれないが、全員私服だ。「映画? ホラー? B級?」とたたみかけるように尋ねると、「ねえ」と虎石の後ろから声がする。

虎石の隣に立ったまるで女の子のように美人な男の子がじろりと訝しげにこちらを見ていた。ぱっちりとして目力があって、メイクしたらきっと映えるだろう。こちらを見る視線にひらひらと手を振ってみせると彼の眉間の皺は増々深くなった。

「この子誰? 虎石くんの友達?」
「戌峰のカノジョ」

虎石が雑な言い方で私を紹介する。そこは誠士郎の口から『彼女』と言ってもらいたかったのだけれど、『戌峰の彼女』という言葉の響きは悪くない。

「えっ、戌峰くんの彼女って実在してたの?! しかも――」

勢いの良かった彼の言葉が急に止まる。その先に何という言葉を繋げようとしていたのかは知らないけれど、誠士郎の友達に会うと大体同じ反応だ。

「それこの間ホシタニもおんなじこと言ってた」

どうやら誠士郎の周りには彼女がいる友達が少ないらしく、それもあって皆余計に驚くのだと虎石から聞いた。それにしても皆判を押したように同じことを言うので逆に面白くなってきた。今のところ連続記録は絶賛更新中だ。

「前に戌峰と渋谷に遊びに行ったときにナンパされたんだよ。戌峰が」
「渋谷って本物じゃん! ……よくあの戌峰くんと付き合おうなんて思えたね。ボク絶対に都市伝説だと思ってたよ」
「そう? 友達に写真見せると皆爽やかイケメンでいいって褒めてくれるけど」

学校でスマホに入っている誠士郎フォルダを披露すると皆大盛り上がりするのだけれど、どうやら誠士郎自身の友達の評価はどうやらそうではないらしい。きっと男と女の価値観の違いってやつなのだと思う。

スマホをポケットから出して「見る?」と尋ねてみたけれど、「いつも本物見てるからいい」と断られてしまった。私だって見れるものなら毎日本物を見たい。こうなったら意地でも誠士郎が最高に盛れてる写真を見せてやろうとスマホをいじっていると、「あっ!」と声を上げて誠士郎がにこにこ笑顔で近づいてきた。

「スマホに新しくついてるそれ、かわいいね!」
「えへへありがと〜」
「首についてるやつも!」
「気が付いてくれた?! 昨日買ったんだ〜!」

つけているネックレスを指に引っ掛けて彼によく見せると顔を近づけて「ん〜?」と唸ったあとに「よく見ると犬の形してる!」と驚いていた。好きなブランドの新作だったのだけれど、お小遣いを叩いて買った甲斐があるというものだ。

「い、戌峰くんがちゃんと女の子のアクセ褒めてる……」
は分かりやすく喜ぶからな〜」

誠士郎が私のネックレスとストラップを褒める歌を歌っている横で、何やらごちゃごちゃと言っている。私はそんなふたりをもう無視して誠士郎の歌に手拍子をすることにした。いつの間にか彼の歌う歌詞は私自身を褒めるものに変わっていた。

誠士郎は最初から私の最高の彼氏だ。

2017.11.22