今日のお酒の席はいつも以上に盛り上がっていた。気の知れたメンバーと食べるおいしい料理は箸もお酒も進む。

テーブルの向こうで笑い声が上がるのを、何を話しているかもきちんと聞こえていないくせに何となく楽しくて一緒に笑っていると、不意にこてんと肩に重みがかかった。

「ひ、ひいらぎくん?」

彼の名前を呼ぶ私の声はひどく掠れて裏返ってしまった。すでにアルコールを随分と通したせいか、いつも以上に自分の喉をコントロール出来ていなかった。

――肩にあの柊くんの頭が乗っている。隣に座っていたのに、柊くんがそんなに沢山お酒を飲んでいるとは気付かなかったし、彼が自分の許容量以上のお酒を飲んでしまうなんて思いもしなかった。彼は私の中で“飲みすぎ”とは最も縁遠い存在だったのだ。

「柊くん、大丈夫? えっと、お水……」
「すみません」

私の肩の上に乗った頭が小さく答える。その声も随分と柊くんらしくない。柊くんだって人間なのだからたまには失敗して飲みすぎてしまうことだってあるだろう。

「眠いの? 気持ち悪くはない? あの……つらかったらしばらくこうしててもいいから」

最後の一言を言うのに私の心臓はひどく大きく鳴ってしまった。肩が揺れて彼に気付かれてしまわなかっただろうかと心配になったけれど、彼のまあるい頭のてっぺんからでは、彼が今どんな表情をしているかは分からなかった。

「すみません」
「本当、私は大丈夫だから」
「いえ、そうではなく」

そう言った柊くんの声はさっきほど弱々しくはなかった。じゃあどういう意味?とこちらが問いかけるよりも早く彼が口を開いた。

「……本当はそこまで酔っていないんです」

ぐりと彼が額を私の肩に押し付ける。柊くんの顔はますます見えなくなってしまったけれど、赤く染まった耳が出ている。彼の言葉の意味を脳みそが処理するよりも早くそのことに気付いてしまった。

「すみません、変なことをして」

私と同じように、いやそれ以上に彼からはこちらの表情が見えないのに気が付いた。

もぞりと彼が身動ぐ。今度こそ柊くんが離れていってしまう――。まさか彼の頭を手で押さえつけるわけにもいかない。

「い、いやじゃないよ」

どうしたら良いのか分からずにそれだけを言う。私の方はすっかり酔ってしまったのかもしれない。たったそれだけのことを言うのにひどく顔が熱かった。

2018.08.20