!しばらくこれ持っていてくれ!」

そう言って作兵衛が一本の縄を私に手渡した。無理矢理目の前に差し出されて、思わず受け取ってしまった。私がしっかりと縄を握ったのを見ると作は「頼んだぞ!」とだけ言ってまた走って去ってしまった。一体これはなんだろうと首をひねりながらその縄を手繰っていくと、その先に神崎左門がいた。

 *

「何してんの?」
「なんか分かんないけど縛られた」

何してんのと聞いたものの答えはひとつだ。左門が迷子になって、作兵衛に捕獲された。それ以外に考えられない。しかし当の本人は何故縛られたかなんて全く理解していない様子で座っていた。預かってしまった以上仕方ないと私もその隣に腰掛ける。この手を放してしまったらきっとまた左門は迷子になってしまって、捜索する作兵衛が可哀想だ。

「さっきおばちゃんにおまんじゅうもらったんだけど、あとで食べる?」
「食べる!どこにあるんだそれは」
「私の部屋」
「じゃあ今すぐ行こう!」
「左門はここ動いちゃダメ!」

そう言って手綱を引っ張ると左門は「ぐえっ」と変な声を出したあとに、また大人しく元の位置に戻った。暇だから適当な話題を持ち出したのだけれど、話題の選択を間違えたようだ。余計なこと言わずに作兵衛が戻ってくるのを待とう。そう思って三角座りをする。やっかいなものを押し付けられてしまったと私は早くも後悔した。

「そういえばどうしてがここにいるんだ?」
「作兵衛に無理矢理綱持たされた」
「作兵衛は?」
「知らないけど、多分三之助探しに行ったんだと思う」

左門を見つけたのなら次は三之助を探しに行ったと考えるのが妥当だろう。左門を連れていたのでは三之助を探しにくい。だから私に左門を押し付けたのだ。それを言うと隣に座っていた左門は突然立ち上がり、邪魔だからと手綱を短く持っていた私はそれに引っ張られた。

「じゃあ我々も作兵衛を手伝おう!」
「ダメだよ、作兵衛は待っててって言った」
「でも三人で探した方が早いに決まってる」

それはそうだけれど、その探す側が方向音痴でなかったらの話だ。左門が探したら事態が余計ややこしくなるのは火を見るよりも明らかだ。作兵衛としても、人手が増えるよりも、左門が再び迷子にならない方が嬉しいに決まっている。せっかく見つけたひとりがまた迷子になるなんて居たたまれない。

「友が困っていたら助けなければ!」

その困らせている原因のひとつが言うなとは言えなかった。

「ほら行くぞ!」

そう言って左門は私の右手を取った。そのまま勢いよく引っ張られる。こういうときの左門を止めるのは骨だ。私が付いていれば変なところへ行こうとしたら止められるし、左門の居場所が分かれば作兵衛は文句は言わないだろう。

「もう仕方ないなぁ」と言うと左門は振り返って私に笑顔を見せた。

左門はいつも強引だ。決断力があるからどんどん物事を決めて先に行ってしまう。方向音痴なんだから大人しくしててよとは思うけれども、こうして友達のためにすぐに行動するところは見習っても良いかなと思うのだ。

2011.07.03