俺は動かしていた手を止め、額の汗を拭った。周りを見渡すとどうやら俺が今埋めている塹壕で最後のようだった。委員長の食満先輩は一年生と一緒にいた。食満先輩は俺より倍多くの穴を埋めていたのに、早く終わり一年生を手伝っている。一年生は三人でひとつの塹壕を担当していたのだけれど、小さい体ではそれはなかなか大変な作業のようだった。それも食満先輩が手伝うことでほとんど終わり、今は砂遊びのような状態になっている。一年生達の楽しそうな声が聞こえる。

「富松先輩、おつかれさまです」

声がすると同時に手拭いが差し出される。横を見ると二年のだった。「おう」と言ってありがたく手拭いを受け取る。二年生のさらには女子ということではタコ壷を数個担当していただけだったからもっと早くに終わって、こうして手拭いを持ってきたりと補助に回っていたのだろう。は俺の隣に立って、俺と同じ方向を向く。

「食満先輩楽しそうですね」
も行ってきたら?きっと食満先輩も喜ぶと思うけど」

その言葉に深い意味はなかった。食満先輩が穴埋めに飽きてしまった一年生の相手を引き受けてくれたおかげで仕事がはかどってもう終わるところだったから言っただけにすぎなかった。はその間俺の手伝いをしてくれたけれど、やっぱり本当は一年生と同じように遊びたかったのだと思ったからだ。二年生とはいえ一年生とひとつしか年が変わらないのだから、まだまだ遊びたい盛りだと思ったのだ。そんなことを言ったら俺とだってひとつしか変わらないのだが。少し先輩ぶったことを言いたかっただけかもしれない。

「そそそ、そんな!私はいいです」

そんな何気ない言葉だったのに予想外に慌てたような必死な声が返ってきて、俺は驚きを隠せずを見た。は顔を真っ赤にさせて食満先輩と一年生の方を見ていた。

そのとき俺は悟ったのだ。は確かに年下だけれども子どもでなく、そのときの俺よりも大人だった。そして何よりひとりの女の子だった。ああ、こいつは食満先輩が好きなんだと漠然と思った。 >>