先生と話していたら委員会にくるのが遅れてしまった。先生も私がこのあと委員会にいかなければならないことは重々承知していたし、なるべく手短に済ませようとしてくれていた。私自身も早く委員会に行きたかった。しかし親から学園宛てに届いた手紙の中に私への事付が書いてあったと言われればそれを聞かないわけにはいかない。親もそんなもの学園宛ての手紙に書かなくとも、私個人に宛てれば良かったものをと恨めしく思ったが仕方がない。先生から事付を聞き、それについてやり取りをしていたら委員会の始まる時間をとっくにすぎてしまっていた。

「竹谷先輩遅れてすみません!」
「おー、来たか。遅いから心配してたんだぞー」
「すみません、先生とお話していて」
「なら仕方ないな。孫兵が向こうでじゅんこを探してるから手伝ってやってくれ」
「はい!」

ただでさえ人手の足りない委員会に遅れるなんて申し訳ないと思ったけれど、竹谷先輩の口から出た名前につい口元が緩んでしまう。孫兵と一緒に活動出来るなんて運がいい。自分ばかりこんな嬉しいことがあっていいのだろうか。竹谷先輩の指した方角へ孫兵を探して駆けていくと途中で一年生たちが毒虫たちを箸で摘まんで壺に戻しているところに出会した。

せんぱーい、やっといらしたんですね」
「ごめんごめん、今から頑張って皆探すね」
「よろしくお願いしまーす!」

そう言って一旦毒虫を戻す手を止めて私に向かって大きく手を振ってくれたり、にっこりと笑顔を向けてくれる。いい後輩だなぁと思いながら孫兵の姿を探すと木の根元の茂みの隣に萌黄色の制服が見えた。片膝をついて茂みの中を覗いている。

「孫兵、手伝うよ」
「ん?ああ、か」
「遅れてごめんね」
「なんだ、今までいなかったのか?」

ずきりと胸が痛む。他の委員は全員私がいなかったことに気がついていたのに、孫兵は私の存在など気にも留めていなかったようだ。心配されたいだなんて思ってはいない。けれどもいないことぐらいには気がついてもいいじゃないかと思うのだ。私の存在など所詮どうでもいいものだったのか、それともいなくなったじゅんこで頭がいっぱいだったのか。

「じゅんこーどこにいるんだー?」と孫兵が地面に這いつくばって一生懸命探すので私も「じゅんこちゃん出てきてー」と呼びかけながら茂みの中を探す。毒虫たちを探すのが生物委員の日課となっているが、このじゅんこが脱走したのは随分久しぶりのような気がする。最近はずっとじゅんこはいい子で孫兵とずっと一緒にいたのに。

「じゅんこ!」と孫兵の嬉しそうな声がしてそちらを振り向くと奥の茂みを孫兵が掻き分けているところだった。孫兵が腕を持ち上げると鮮やかな赤が茂みから出てくる。

「こんなところにいたのか。探したんだぞ」

そう言って孫兵はじゅんこを愛おしそうに撫でた。じゅんこも心なしか気持良さそうな顔をしている。するすると孫兵の腕を伝って、最後にいつものように首に巻きつくじゅんこが少しだけ羨ましかった。

私がもし毒を持った人間だったなら孫兵は毒虫たちと同じように私を愛してくれただろうか。いなくなろうものなら大騒ぎして私を探してくれただろうか。考えても仕方のないことだと分かっていてもぼんやりとそんな考えが頭を占める。

「見つかって良かったね」
「ああ、ありがとう」

孫兵が冷たいだなんてそんなの嘘で本当はすごくやさしい人間だということを私は知っている。ちゃんと微笑むし、お礼もするし、それだけで私はしあわせになってしまう。自分がたとえじゅんこ以下だって毒虫以下だって今はそれでもいいかなと思う。


侵蝕する毒薬