「やっぱりさぁ、五年生の久々知兵助ってイケメンだよねぇ」

お昼の食堂で豆腐を口に運びながらぼんやりとそんなことを考えていた。すこし向こうの席に座っているのは五年生で、私はその中のひとりを見ていた。長い黒髪。私と同じ様に黙々と豆腐を口に運んでいる。その顔はくのたまの間でも度々噂に上るほど整っている。美人というか格好良いというかやっぱりイケメンという言葉が似合うと思う。伊作くんと並ぶ忍術学園のイケメン代表だなとくだらないことを考えていたのだ。誰に言うとなしに呟いた言葉だったが予想外にも返事が返ってきた。

「なんだ、お前ああいうのがタイプなのか」
「ち、違っ!ななな、何言ってんのよ!そんな訳ないでしょ、ばかっ!」

よりによって一番聞かれたくない人物に聞かれていた。私の正面には食満留三郎が座っていたことをすっかり失念していた。彼の顔は無表情で何を考えているか読めない。っていうか多分怒っているんじゃないかと思った。恋人が別の男を褒めていたら気分を悪くするんじゃないか。

「あんな豆腐小僧なんかより常識のある食満の方がいいに決まってるでしょ…!食満の方が格好良いし、優しいし、それから」

久々知兵助は顔が良いけれども、それと同時に異様なまでの豆腐好きだと聞いている。常に豆腐のことについて考えているんだとか。そんなやつに比べたら食満の方が断然…

「へーえ?」

食満のニヤニヤしたどこか満足そうな顔を見て私はしまったと思った。なんてことを口走ってしまったのだと。私が食満のこと好きなことは周知の事実であるが、わざわざこんなところで、ああもう!

「お前そんなに俺が好きなんだな」
「な…!何言ってんのよ」
「誰もお前が浮気するなんて思ってねーから安心しろ」

そう言って食満は手を伸ばしてガシガシと私の頭を撫でた。顔は未だニヤニヤと笑ったままだ。

「からかったの…!」
「お前が勝手に自爆したんだろ。俺は何も悪くねー」

そう悪びれもせずしれっと言う。

「お前が俺のこと好きなのはよーく分かったから」
「ばかばかばか!本当に浮気してやんだから」
「おーおー、やってみろ」

どうしてそんなに自信満々なんだ。確かに、私は食満に心底惚れていて他の人なんか考えられないけれど、それは食満には分からないはずだ。少しぐらい不安に思ったっていいんじゃないか。少しぐらい嫉妬しろよばか!

「どうせ出来ないくせに」

そうだよその通りですよ。私はあんた以外の男になんか興味ないですよ!そんな私の思いは一言も口に出さなくても食満に伝わっているみたいだった。

「そう言う食満だって浮気するほど甲斐性ないでしょ!ヘタレ食満!」

言ってしまってから後悔した。これはさすがに言い過ぎた。というか完全に嘘だ。食満だって伊作くんに及ばないにしろそこそこのイケメンでモテるのだ。食満がその気になれば女の子なんて選び放題、浮気し放題なのだ。

「まぁな。俺は他の女目に入らないほどに惚れてるからな」

そう言って屈託なく笑う。そんなことさらりと言うなんてずるい。私は赤く染まっているであろう頬を隠すように縮こまって、「こんなところでそーゆーこと言わないでよ、ばか」と小さく呟くことしか出来なかった。
 

私が一生勝てない相手