委員会で使う道具をいっぱいに詰めた箱を抱えて廊下を歩く。何が詰まっているのか知らないがその箱が私が抱えられる大きさの割りに重くて、気を抜くとふらふらとよろけてしまいそうだった。こんなに重いのなら、別の誰かに頼めなかったのだろうか。そろそろ腕が痛かった。

先輩め、絶対に許さないと心の中でだけ恨めしく思っていると、ひょいと腕の中の荷物が軽くなった。何が起こっているのかと疑問に思っていると、いつのまにいたのか隣に三郎が立っていた。そして彼の手には私が持っていたはずのものが。

「手伝う」

その言葉を聞いて私は混乱した。

「えっと、雷蔵?」
「どうしてそうなるんだ。今の私は雷蔵の声まで真似していなかったぞ」
「あ、やっぱり三郎?」

私だって本気で雷蔵だと思っていたわけではない。雷蔵だったらもっとやわらかい言葉遣いだし、本人も言っていたが声は三郎のものだった。雷蔵の顔をしているけれども、三郎が本気を出さない限りは簡単にふたりの見分けがつく。私だって初めはちゃんと三郎だと思ったのだ。

「三郎が手伝ってくれるなんて思わなかったから」
「私がこういうことするのは意外か?」
「意外というか、素直に手伝ってくれるのは雷蔵ぽいなって」

いつもだったらこういうとき三郎は私をからかったりする。こんな風に、言うよりも早く持ってくれたことなんてない。三郎がこんなことをするよりは、雷蔵が少し三郎っぽい話し方をしたと考える方が容易かったのだ。三郎だってなんだかんだ言って最後にはちゃんと持ってくれるやさしいところがあることは知っているのだけれど。

「もう私の気持ちはバレているからな。少しいい顔しておこうと思ったんだ」

そう言って三郎はにやりと笑った。私はその言葉に赤くなる。私は三日前、三郎に告白されたことを思い出した。突然三郎に呼び出されて、のんきにへらへらとしながら会いに行ったらただ一言『好きだ』と言われた。気持ちがバレているとはきっとそのことを指しているのだろう。

「こういうのは好みじゃなかったか?」
「…分かんないけど、三郎じゃないみたい」
「ほう。参考にしておこう」

そう言って三郎は歩き始めた。私はあの時突然のことに混乱して『分からない』と答えてしまったのだけれど、三郎は『そうか』とだけ言って曖昧な返事をした私を責めなかった。その後三日経ったが、三郎は以前と変わらない態度で接してくる。私から避けるのもおかしな話なのでこちらも態度を変えないようにしてきたのだが、こういうところで特別扱いをされると、途端に意識してしまう。三郎が私のことを好きだと言ったのは嘘ではなかったのだ。

私自身が三郎のことどう思っているかまだ結論は出ていない。三郎は友達だし、ちょっといじわるなところがあるけれども本当はやさしいし、何でも出来ちゃうしかっこいいのだけれど、三郎のことをそういう風に考えたことがなかったから分からないと答えてしまった。

「まぁ、が私に惚れるよう地道に努力していくさ」

正直、三郎に地道だとか努力だとかそういう言葉は似合わなくておかしかった。女の子ひとりのために好かれようと努力するのは三郎というよりも雷蔵らしかった。もしかして、三郎は顔を借りているうちに、心まで雷蔵らしくなってしまったのだろうか。そんな、まさか。

「三郎、ありがとう」

俯いて、小さな声で言う。前を歩いている三郎には私の顔など見えるはずがないのに、彼の口からは楽しそうな笑い声が漏れた。


2011.06.17