最近、自分が制御出来ないというか、無意識のうちに行動してしまうということが多くなった。その行動自体は大したことではないのだけれど、自分の勝手に動いてしまうことはおそろしいことだった。

「三郎、髪がぐしゃぐしゃになる」

そう言われて初めて自分の右手がの頭に置かれていることに気が付いた。全く無意識のことだった。何故自分がそんなことをしたのか分からなくて困惑したが、も私の手の下で困ったような表情をしてこちらを見上げていた。一体自分はいつの間にこんなことをしていたのだろう。最初は普通に立ち話をしているはずだったのに。

「あー」

時間稼ぎに意味のない言葉を発する。咄嗟にいい言い訳が思いつかなかった。頭を撫でていた正当な理由なんてそうそうあるわけがない。

最近こんなことが多い。この間もの姿を見かけたときに「」と何も用事がなかったのに呼びかけてしまった。ああ、がいるなと思っただけだったのに、口から出た音に自分が一番びっくりした。それなりに距離は離れていたのに、運の悪いことにはそれを聞きつけて小走りでこちらへ来てしまった。「何か用?」とは純粋な目でこちらを見上げた。その時も頭が働かなくなって、ふざけた調子で「呼んだだけ」と言うとはぷりぷりと怒って「ひどい!」と言った。

「撫でてみただけだ」

その時のことを思い出して同じようなことを言う。またきっとは「ひどい!」とぷりぷり怒り出すだろうと思っていた。そう思っていたのにいつまで待っても「ひどい!」が飛んで来ることはなかった。おかしいと思って顔を覗き込むと、先程と同じように困ったような顔がそこにはあった。さっきと違うところはひとつ、頬が赤いところだけだった。これはちょっと予想外でただでさえ混乱しているというのにさらに拍車をかけた。

といるとすぐに調子が狂う。身長差があるから仕方ないこととはいえども、上目遣いが気になって仕方ない。かわいい、と思う。そんなことを考えるなんて鉢屋三郎らしからぬと思うのだけれど、自分ではどうしようもない。まぁ多分雷蔵だって『そうだね、ちゃんはかわいいね』と言うだろうからきっと大したことではないのだと自分に言い聞かせる。

「だから、その…」
「さぶろう最近変だよ」

全くもってその通りだ。言い返せない。この鉢屋三郎が自分のしたことが分からないなんておかしい。あってはならないことだ。右手はいまだの頭の上に乗せられたままで、もうおろすタイミングが分からなくなってしまった。じわりと右手に汗が滲む。さらさらとした髪の感触を意識してしまう。

「そうだな、少しおかしいかもしれない」

そう言って私はの背に手を回した。そのまま引き寄せると面白いくらい簡単に胸に倒れこんできた。それを抱きとめて腕の力を込めるとじんわりと触れている部分があたたかくなった。どうやら本当に私はどこかおかしくなってしまったようだ。

それは恋です