風が良い香りを運んできたような気がして目が覚めた。縁側に座ったままどうやら寝てしまっていたらしい。
右側に微かな重みがあって、そちらを見るとが僕に寄りかかって穏やかな寝息を立てていた。どうやら僕が起きるのを待っている間につられて寝てしまったらしい。自分もそうだけれど、このままの態勢で寝てよく床に倒れこまないなと思う。
そんなことを思っているそばからが「ん」と小さく声をもらして体をよじった。そのままでは床に倒れてしまうと思って慌てて右手で肩を抱いた。僕の方に寄りかからせると彼女は再び目を閉じてしまった。どうやら僕が起きるのを待っている間に彼女の方が深い眠りに落ちてしまったらしい。
「らいぞう?」
「おはよう。もっと寝てても良いよ」
「……起きる」
そう言って目をこする彼女は小さいなと思う。自分だって特別背が高いわけではないのに、彼女がとてもとても小さく見えるときがある。今は体を丸めているから特にそう思えるのかもしれない。けれど掴んでいる肩はとても細い。この学園にいて食事に困るなんてこと、食堂のおばちゃんがいる限りありえないとは思うのだけれど、それでもきちんと食べているのか心配になるときがある。僕のおにぎりを分けようとするのだけれど、大抵はもう沢山食べたよと笑いながら返されてしまう。
「よく寝てたね」
「私が眠くなったのは雷蔵が寝ちゃったからで」
「うん、寝ちゃってごめんね」
まだ頭が働かない様子の彼女に触れる。髪を梳くと指を間を流れていく。自分ほど髪の量がある人もなかなかいないとは思うが、これほど違うものなのかと触れるたびに驚く。タカ丸さんのように髪結いでもなければ、やたらと他人の髪に触れるような気安い性格でもないから他の人のことなど知らないが、それでもの髪は触れていて心地良いと思う。日に当たっていたからか彼女の髪はいつもよりあたたかく、やわらかい気がした。「雷蔵」と彼女が僕の名前を呼ぶ。それっきり待っても彼女は続きを言わなかったから、きっと名前を呼んでみただけなのだろう。僕も彼女の名前を呼び返そうと思ったのだけれど直前で気恥ずかしくなってやめた。
「そういえばこうしてふたりで寝ちゃうの久しぶりだね」
「最近の雷蔵はあまり悩まなくなったものね」
「そうかな」
「悩み始めると長いけどね。今日みたいに」
そう言って彼女はくすくすと笑う。それに対して僕は再び「そうかな」と言ってとぼけてみせる。最近は随分と増しになった僕の迷い癖も長い付き合いであるはもうそれをすっかり承知していて、ずっと僕に付き合ってくれる。
「結局何で悩んでたのか忘れちゃったなぁ」
「忘れちゃったねぇ」
この縁側に座り始めたときはあたたかな陽が当たっていたのだけれど、今はもう少し陽が傾いている。そんなに長い時間寝たつもりはないのだけれど、結構時間が経っていたらしい。時折風が吹いての前髪を揺らす。
「寒くはない?」
「平気」
大丈夫だと言ったくせには僕に擦り寄った。まるで猫が甘えるような仕草に思わず彼女の頭をくしゃりと撫でる。どうやら猫の耳は生えていないようで安心した。
彼女が寄りかかる右側がぽかぽかとあたたかい。
2012.08.25
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