「ボスは間違えない」

誰かがそう言った。ボンゴレのボスはいつでも正しい、失敗などしないのだ、と。だけど私はそれは嘘だ、と思う。ボスだって人間だから間違うことだってあるだろう。あなた達が正しいと思っているだけかもしれないでしょう?悲しいことに今の世の中は"正しい"と思う人が多数ならばそれだけでそれは"正しいこと"になってしまうのだ。もっと言えばそれが権力者ならより、"正しい"ことになる。恐ろしいことに。

「間違ってたんだよ」

私は小さく呟いた。私も、以前だったなら彼が間違えることなんて考えられなかっただろう。彼の言うことはいつも筋が通っていて、理論的で、たまに情的であり、大抵私は彼の意見に賛同した。たまに私と食い違うこともあった。けれども、必ず、彼の為すことは成功を収める。だからボンゴレはここまでやってこれたのだと。私は時々彼は予知能力を持っていたんじゃないかと思うことがある。ボンゴレには優れた直感能力があると聞いたことがあるが、そうではなく、彼は未来を見通せたのではないか。だから、彼は間違わない。だって答えを知っているから。そう思えば彼の神的な判断力にも納得がいく。

「彼の最後の選択は間違っていた」

私だって、出来ることなら彼が間違っていただなんて思いたくない。彼は私の指標だったのだから。信じたい。神は人々が信じることをやめた時から存在価値が消える。でも、こればっかりは信じたくない。彼がいなくなるという選択が正しかっただなんて。

「こんなことがあっていいはずがない」

正確に言えば、彼は消えることを選んだ訳ではない。選んだ結果がそれに繋がっただけであって。そうだ、彼は間違ったのだ。彼が消えることが正しいはずがない。本来ならあってはならないことなのだ。彼が正しいことと彼がいなくなった事実は矛盾している。何故彼は消えてしまったのか。彼は未来を見ることが出来るのではなかったのか。だったら、何故?彼は正しい選択をしたのか、それともそもそも未来を見ることなど出来なかったのか。間違ったのか。彼がいなくなった今となってはそれは分からない。

「ねぇ、綱吉、教えてよ」

私達のボス。私の綱吉。私は何が正しくて、何がそうじゃないのか、もう、分からないよ。あなたは正しかったの?私の前からいなくなって、もう私のことを、「、」と春のようなやさしくやわらかでとてもあたたかい声で呼ぶことはもうないなんて、そんな。

いっそのこと"正しく"ないことなど全て起きなければいいのに。そうすれば答えは簡単でしょ?世の中は単純になる。分かりやすくなる。こんな複雑で残酷で先の見えないこの世の中で、ただひとつ私が断言できることは彼は神ではなかった、ということだけだ。もしくは、神でも間違える。
070415 本誌を思うと洒落にならない