ピンポーン、ピンポピンポピンポーン!!チャイムを連続で鳴らす。正直こんなの迷惑以外の何ものでもないのだけれど、私はとりあえず5回ほど連続して鳴らしてみた。「はーい」って中からだるそうな声が聞こえてきた。お?

「はーいどちらさまですか、ってかよ。朝っぱらから何の用だよ」

ドアを開けた綱吉は髪の毛ぼさぼさで眠たそうに目を擦っていた。もしかして寝てた?おいおい、もう3時だぜ、午後の。いくら休みだからって寝すぎだろ!「いや、昼寝してた」でも今日綱吉起きたの10時なくせに。「お前だっていつも夜更かしして起きるの10時だろ。昼寝してるのも知ってる。今日はたまたま起きてるからって調子のんな」ぐっ…ばれてる!

「何しにきたんだよ。用がないなら帰れ」
「勉強しにきた。宿題が終わりません」
「はぁ?オレ教えられねぇし、子ども達がうるさいぞ?」
「大丈夫。気にしないから」
「集中できないぞ?」
「大丈夫!」
「自分の部屋でやれよ」
「だって綱吉の部屋クーラー効いてて涼しいんだもん」
「自分の部屋のつけろよ」
「私の部屋クーラーないもの。いいでしょ」

おじゃまします、って言って上がり込む。綱吉は小さなため息をついて、諦めたみたいに私のあとをついてきた。

「あれ、奈々さんは?手土産にアイス買ってきた」
「母さんなら買い物にでたよ」
「えー」
「オレこれから出かけようと思ってたんだけど」
「アイス冷蔵庫に入れさせてもらうねー」
「人の話聞けよ」
「つなよしは何味がいい?」
「…なんでも」

そう言うので私は袋の中からごそごそとチョコレートのアイスとストロベリーのアイスを取り出した。ちなみに私がチョコで綱吉がストロベリー。と思ったけど逆になるかもしれない。もしかしたら綱吉がチョコの方が好きかもしれない。途中で私の気が変わってストロベリーが食べたくなるかもしれない。もしそうなったら綱吉はちゃんと半分こしてくれるかな? とりあえず残りは冷凍庫にしまう。ひんやりとした冷気が私の頬を撫でる。冷凍庫の中はきちんと整理されていてアイスの入るスペースはあった、さすが奈々さん。

「さ、行くよ」

そう言って前に立つ綱吉を急き立てる。彼は最初私に押されるような形で、それから自分で歩き出した。 手に持ったアイスが冷たい。でも早くしないと私の手の温度で溶けてしまうよ。このアイス新発売だったから思わず買っちゃったんだ。皆食べると思って10個も。あとで食べていいよー感謝してね!っつっても1個105円だけど。

「オレの部屋くんの?」

綱吉が急に止まるものだから、私は彼の背中にキスしてしまった。綱吉の背中にキス。シャツ越しに綱吉の背中のラインが分かる。背中大きいなぁ。

「いけないの?」
「や、別に。がオレの部屋くるの久しぶりだと思っただけ」

振り返るな振り返るな、前見て喋れ!心の中で叫んだ。ただ背中にぶつかっただけなのに私の顔は真っ赤だ。多分。背中にキスなんて、そんな発想、どこからでてきたんだ?顔があつい。 多分夏だから。日焼けだ!もう考えるのはよそう。別のこと考えよう! 背中にキス …背中?あれ、おかしい。なんで背中に私の口が当たるの?綱吉の背は、
 
「あれ、綱吉背伸びた?」
「え、どうだろ?自分じゃよく分かんないよ」
「伸びたよ。絶対、伸びた」
「まぁ、夏だし。伸びたのかも」

そう言う綱吉との身長差は歴然だった。いや、綱吉も他の人(例えば山本とか獄寺とか、)より随分小さく感じるけれども、それでも絶対大きくなってた。一体いつの間に。いつの間にこんなにも歳月が流れてしまったの?早い早いはやすぎるよ。見上げる彼の顔は変わっていないようで、細部が違う。

「小学校のときは私のが大きかったのに」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
「オレよりはでかかったと思うんだけど」
「嘘だ!絶対目線一緒だったもん」

はいはい、そういうことにしといてやるよ。ってほとんどだるそうに言った。なんだよ、その言い方は!彼が部屋のドアを開ける。「部屋、汚いけど」知ってる。けど、口に出さない。そんな言い方したら怒るかな?っていうか部屋はそんなに言うほど汚くなかった。漫画とかゲームとかその辺に無造作に放っぽってあったけど。ゴミとかは散らばってなかったし。奈々さんが掃除したのかもしれない。少なくとも、私の部屋よりはマシだ。冷房の涼しい空気が漏れてくる。なんて快適な部屋なんだ!

「目が覚めたら腹へったな…。も何か食う?」
「あー別に気にしなくていいよ私のことは。私ランボちゃんやイーピンちゃんと遊びにきただけだから」
「ランボもイーピンも今いないぞ?」
「なんで!」
「皆母さんと買い物行ったんだって」
「えー」
「つか勉強は?」
「やる気なくした」
「あっそ」

ったく何しに来たんだよ。呆れ声でそう言って立ち上がったので「あれ、出掛けんの?」って聞いたら「お茶、飲むだろ?」って。気が利くなぁと思ったけれども綱吉は自分が飲みたかっただけなのかもしれない。出かけるとか言いつつ、呆れただるそうな声で喋りつつ、なんだかんだで綱吉は私を歓迎してくれるらしい。お茶を出すとはそういうことだ(これワタクシ持論ね!)

「飲むー!」
「っつても麦茶しかないけど」
「いいよ。私綱吉んち麦茶大好き」
「宿題、やっとけよ。二人でやればなんとかなるだろ?」

そういい残してバタンとドアを閉めた。ペタペタと階段を下りる音がする。つまり、偉そうなこと言っといて綱吉お前も宿題終わってないんじゃないか。なんだよなんだよ。てっきり、綱吉はもう夏休みの宿題終わっちゃったのかと思った。毎年毎年31日に奈々さんに手伝ってもらいながら私と一緒にひぃひぃ言いながら終わらせていたのに、今年はそんなことないようにとっくに終わらせてしまったのかと。もう、そんなことしなくても友達と勉強会を開いて終わらせてしまったのかと。去年の31日は綱吉はそうやってもうほとんどの宿題を終わらせてしまっていたんだ。残ったのはひとつだけ。(私は全部残ってた)だから、今年は、綱吉は生まれ変わって宿題は全て7月中に終わらせてしまいました、なんてことになったらどうしようと思った。そんなの悲しすぎるよ。なにせ私は31日にこうして綱吉と宿題やることが恒例になってるんだから。私のプリントだけ真っ白。鉛筆の粉が全く付いていないなんて。
ぼふっとベットにダイブすると、ふわり綱吉の匂いがした。それに安堵する。なんか私変態っぽいなぁとか思ったけれども、別に綱吉のベッドなんだからいっか、とも思った。どんな理屈だか知らないけれども。太陽の匂いもして干したばっかりなのかもと思った。やさしい香りを胸いっぱいに吸い込んで私はゆっくりと目を閉じた。 夏の、匂いがする。 

夏が飛ぶ午後