彼のいるその場所は暖かい陽が降っていた。私がいる廊下が陰で少し冷たく暗く感じられるのに対して、そこはあまりにも暖かかった。美しく造形された場所。植えられた木も、花も、そこに置かれたテーブルも、椅子も、鳴く小鳥の声すらも、全て計算されたように美しくある。そしてそこにいる彼も当然そこにあるべきがごとく、ごく自然に美しくあったのだった。
「ボス、」
私は引き寄せられるように光の中へ一歩踏み出して呟いた。この景色は本当にこの世に存在しているのだろうか。私が入ろうとしたら、そこは消えてしまうのではないかと思った。けれども、実際はそんなこともなく、私が光の中へ一歩踏み出しても庭はそこに美しいまま存在していたし、彼は置かれた椅子に座り、ティーカップに口をつけていた。彼が振り返る。瞳が私を見据える。そして目が細められ、彼は微笑む。
「」
私は彼が光の中で微笑むのを見ていた。まるで絵のようだ。美しい庭、人。永遠に変わることのないもののように。そして永遠に交わることのないもののように。少し疲れていたのかもしれない。彼に名を呼ばれてしばらく、我に返った。
「あ、お寛ぎのところ申し訳ありません。ボスの姿が目に入ったのでつい声を…」 「いや、いいよ。どうせオレ休憩中だったし。何か?」 「すみません、特に用もなく、」 「そっか。、今暇?このあと仕事入ってる?」 「いえ、今片付け終わったところです」 「じゃあさ、一緒にお茶でもどう?もしよければ、だけど」 「…よろしいのですか?」 「もちろん」
彼はまたにっこりと微笑む。はっきり言って彼は私に微笑みを向けすぎだ。すっと彼が立ち上がり、新しいカップを取り出す。それを私が制止する。
「紅茶で、いいよね?アールグレイで?」 「私、自分でいれます。自分が飲むのですから」 「オレがいれるからは座ってなって」 「ですが、ボスにいれていただくなんて」
私がそう言うと彼は表情を険しくした。え?しかしそれもすぐ消え、今度は棘のない、けれども真剣な表情で私を見つめた。何か失敗をしてしまっただろうか?何か失礼なことを?あのさ、。私は彼の口がそれを紡ぐのを呆然と見ていた。
「あのさ、。オレは今仕事中じゃないんだ」 「存じております」 「君も今は仕事中でない」 「はい」 「つまり、これはとてもプライベートなことなんだ。だから君がオレにそんなに気を遣う必要なんてないんだよ」
オレが誘ったんだし。それにオレ、紅茶とかコーヒーとかいれるの得意なんだよ、いつもいれさせられてるから。そう言ってハハと彼は笑った。よく笑う人だと思った。いつもあの部屋で窓から差し込む光に背を向けて私の話を聞く人ではないようだ。もしかしたら、あの大きく真っ黒な椅子がないからそう思うだけかもしれない。もしかしたらそれだけでないかもしれない。
「今ぐらいはも寛いでよ。ね?」
彼の笑顔は眩しすぎる。
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