ビュンビュンと風が耳元で唸る。景色が勢いよく後ろへ飛んでいく。スピードは十分でていたけれどこぐ足は止めなかった。右左右左!角を左に曲がるときもそれは変えなかった。すると重心を傾けたときザッと靴のかかとが地面とこすれた(あ、またやっちゃった)でも気にしない。50m先、目標発見!突撃します!

「つーなーよーしーっ!!」

そう叫んで突っ込んでく。振り返った彼はものすごいスピードで向かったくる私に驚いた顔をした。ブレーキを握る。ズザァァァって音で後輪が横滑りしたのが分かった。綱吉はとっさに腕で頭を庇うようにしていたけれど、私は彼にぶつかる寸前で止まった。(私のチャリンコテクをなめてもらっちゃ困るぜ!)

「…っ!危ないだろ、!何の真似だよ」
「へい、彼女!オレの自慢のマッシーン☆エリザベス3号に乗ってかないかい?」
「はぁ?」
「家まで送ってってしんぜよう」
「いや、別にいいし…」
「つべこべ言わずに早く乗れ!」

そう言って綱吉から鞄をひったくって前のかごに突っ込む。彼が「何すんだよ」って言う。(私が何したいのか、本当は私が一番知りたい)

「この鞄を返してほしかったらさっさと後ろに乗るんだな!」
「だからオレは別にいいって言ってんだろ。鞄返せよ」
「この鞄に入っている綱吉の全財産、1467円(貧乏だな!)をもらっていいのかな?フハハハハ!」
「何でオレの財布の中身とか知ってんの…!」

つなよし、お前には私(が取った鞄)を全力疾走で追いかけるか、私のエリーちゃんの後ろに乗るしか選択肢はないのよ!さぁ、頑張って私を追いかけるのね!(絶対綱吉じゃ私のエリーちゃんに追いつけないだろうけどね!)高らかに笑いながらエリーちゃんのペダルに足を掛けて漕ぎ出すと、綱吉が焦って「おい、ちょ…!、冗談だろ。待てよ!」って言って私の後ろに飛び乗った。最初からそうすればいいのに。

「振り落とされないようにしっかり掴まってなさいよ!」

そう言ってトップスピードで自転車を走らせる。(綱吉は後ろで悲鳴だか突っ込みだかなんだか言ってる)そうして住宅街、商店街、また住宅街をあっという間に通り抜ける。楽しい。私は世界より速く走っている。

「おい、、スピード落とせって!おわ…っ!!事故るぞ!」

後ろで綱吉が叫ぶので少しだけスピードを落とす。周りの景色が通り過ぎのがゆっくりになるのと同時に時さえもさっさよりゆっくり流れる気がした。このままこの時間がずっと続いてくれればいいのにと思った。時間が止まればいいのに。世界より速く走るのと、世界よりゆっくり走るのとではどちらが時間が長くなるのだろう?右左右左。足を動かし続けなければ転んでしまうから無心に動かし続ける。右左右左…。後ろの綱吉がゆっくり口を開いた。

「なぁ、オレの家反対方向なんだけど」
「知ってるよ」
「お前ん家も逆方向だよな」
「知ってるよ」
「どこ行くんだよ」
「どこか、遠いところ」

怒るかと思ったけれど、綱吉は「そっか」とだけ言って静かに後ろに座ってた。最初は本当に綱吉を家まで送っていくという責任感に駆られていたんだけれどな。どうやら今ではそれもどうでもよくなってしまったらしい。漕ぎ疲れた足が痛い。心臓も痛い。

「疲れたなら今度はオレが前で漕ぐよ」

男が女の子の後ろ乗るってかっこ悪いしな。このまま2人で交互に自転車を漕いで行ったら、どこまで行けるだろう?私が疲れたら綱吉、綱吉が疲れたら私。きっと想像もつかないね。

「っていうか、綱吉自転車乗れるの?」
「お前失礼もいいとこだぞ!乗れ、るよ…」

だんだん小さくなって行く語尾に私はくすくすと笑ってしまった。ああ、本当にこんな日々が永遠に続けばいいのに、と綱吉の大きく温かい背中に寄っかかりながら思った。
 

自転車を漕ぐ(青春の象徴だ)

(060618)