多分、ちょっと急げば大丈夫!なんていう考えがいけなかったんだと思います。うっかり今日の夕食の材料を買い忘れてしまって、空はどんよりと重い雨雲で、もうすぐ雨を降らすぞーって警告しているようなそんな雲だったけれど、今降ってないから大丈夫!だと思ってしまったのです。なんて私は甘かったのでしょう。昔からお母さんは何事も余裕を持って行動しろと言っていたのですが、私はドラマの再放送も見たかったので傘も持たず、財布だけを引っ掴んで出てしまったのです。
そんな経緯があって今私は店の前でぼーっと雨を眺めている、というわけなのです。雨は小雨とかそんなレベルじゃなくて、雨音以外の音を全て掻き消すようなどしゃぶり。(なんて自己主張が激しいのでしょう!)これじゃあ走って帰る気も起きません。雨が私を叩きつけて痛そうです。お天気お姉さんは雨が降り出すのは夜からって言っていたのに、なんて心の中で呟いた。せめて携帯くらい持って出ればよかった。そうすれば犬ちゃんとか迎えに来させることもできたのに。
ああ、もうドラマの再放送始まってるよ。前見たのだから話知っているけれど。リアルタイムで見てました。大好きでしたよ。確か今日の話は、そう、ドラマの中でも雨が降っていた。主人公が雨に濡れて歩いていると相手役の格好良い彼がそっと傘を差し伸べてくれるのです。素敵ですね。
でもそんな素敵なこと現実に起きるわけないのです。確かにあの人は顔だけならあの相手役の人より格好良いですけどね!でも彼がここを通りかかるような偶然ってあるのですか?(答えはノーです!)
そんなことを考えながら雨宿りのつもりで店の軒先にいたのですが、雨はやむ気配を見せません。それどころか、むしろさっきより雨脚が強くなってる気がします。あれ、雨ってこんなに降るものなんですね。このままではまだまだ雨が強くなるような気配です。ぐずぐずしていないで最初に濡れて帰る決心をすればよかった。天気予報では夜雷雨になるって言ってました。雷になる前にさっさと帰ろう今すぐ帰ろう。そう思い、私は思い切って一歩足を踏み出しました。
「何やってるんですか、濡れますよ」
そう言って彼は劇的に、ドラマチックに登場したのです!こんなことって本当に合ったのですね。彼はなんて演出がうまいのでしょう。こういうことに関しては彼は天才的だと思います。思いがけないこととか、私がこうであったらいいと思うこととか、そういうことをさらりとやってのけてしまうのです!
「骸さん…偶然ですね」 「偶然ではないですよ。を探してたに決まってるでしょう?」 「何か御用でしたか?」 「あなたがこんな雨なのに帰ってこないから」
どうしたのかと思えば案の定傘を持ってでなかったのですね。そう彼は呆れたような声で言った。ぽたぽたと傘の端から雫が落ちる。私はそれを見ながら、これは夢じゃないかって考えた。(だってこんなのって、)
「携帯で呼んでくれればすぐ迎えにいったのに」 「携帯忘れました」 「ばかですね」 「でも骸さんが探しに来てくれるなんて思いませんでした」 「ばかですね」
迎えに行くに決まってるでしょう、が待っているならどこへでも。本当にドラマの中にいるみたいです。やっぱり骸さんはすごいですね、とてもロマンチックです。骸さんが差す傘の中にそっと入る。雨が傘を打つ音がよく聞こえる。彼を見上げるとあの美しい笑顔を浮かべるのです。
「ぬれますよ」
そう言って彼は私の肩を抱いた。あなたのあたたかい体温が伝わってくる。いつもより優しい。
やさしいあめ
06.06.18
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