僕はその夜眠れなかった。暗闇の中どんなに目を瞑っても、羊の数を何百匹と数えても、起き上がって温かいミルクを飲んでも眠気はやって来なかった。どうでもいい時はしつこく訪ねてくるくせに。 ベッドに戻って無理矢理寝ようと努力していたのだけれど、再び僕は音を立てないように注意してそっとベッドから抜け出した。部屋の中は少しだけひんやりした空気が存在していた。外はもっと寒いのだろうかと窓辺に寄る。足元を冷たい空気が撫ぜる。すっかり秋になってしまったのだ。薄く窓を開ければ分かる。昼間は汗ばむくらいなのに、どうして秋の昼と夜はこんなに違う顔を持っているのだろう?頭上には夏よりも少し澄んだ星空が広がる。月はない。新月、なのだろうか。  ふうた、と僕を呼ぶ。

「なにをしているの」
「何だと思う?」
「もしかして、ランキングの星と交信中?」

そう言っては薄く微笑んだ。起こしちゃった?と聞くと「たまたま寒くて目が覚めたの」と彼女は言い、僕の隣に膝を抱えて座った。フローリングに触れる白い足先がつめたくなるんじゃないかと思いながら僕はそれを見つめていた。

「正解。今日みたいな日はランキング日和なんだよ」
「ねぇ、ランキング星ってどれなの?」
「うーん、あれかな?もしかしたらあっちのかも」
「どれよ」
「本当はどれでもないんだ。が決めて」

なぁに、それ。と彼女は笑った。どれでもないっていうのは本当に本当のことなんだよ。本当に僕はランキング星の位置を知らないから。きみは僕のことを何でも知ってるのね、とよく言うけれどそれは嘘で、本当の僕には知らないことが沢山ある。事実、きみがずっと昔から知っていて、僕は持っていなかったものだってあったじゃないか。

「もし、僕が、本当はランキングの星なんてないって言ったらどうする?」
「どういうこと?」
「僕がどうしようもない嘘吐きだったら、ってこと」
「あなたのランキングは本物」

短くそれだけ言った。ねぇ、もし僕のランキングが正しいものだとしても、それは"分かる"の出はなくて僕が逐一"調べた"ものだったらどうする?そうじゃないって言う証拠は何ひとつない。ランキングの星よりそっちの方がよっぽど信じられると思うけど。

「ふうたの、言うことが私の真実なの」

、きみはどうしてそんなに純粋で穢れがなく、それでいてどうしてそんなに愚かなの?僕を信じるとか、そんな。ひとはうそもつけるんだよ。

「星はここからだと遠すぎてきっと見えないね」

彼女はそっと僕の肩に頭を預ける。幾千もの星が輝いている。その中のひとつに僕らが求める星はあるのかもしれない。
空気がすこしだけつめたいから、僕らは寄り添った。